top of page

りんごはなぜ58億円減ったか|果物の台湾輸出2026・検疫と残留農薬

堤浩記
8 時間前
読了時間: 24分

台湾は、日本の果物にとって最大の輸出先です。2024年の台湾向けりんご輸出は156.0億円で、日本のりんご輸出全体の77.5%を占めました。ぶどう・かきでも台湾が1位、いちご・もも・なし・かんきつでも2位です。

ところが2025年、りんごの輸出額は前年から58億円減りました。農林水産省はその主因を、台湾向けの春節需要期のずれと、高温・雪害で贈答用の大玉が確保できなかったことに求めています。つまり、台湾の需要が冷えたのではありません。日本側が出せなかったのです。

この一件は、果物の台湾輸出の構造をよく表しています。台湾で日本の果物は贈答品として強いブランドを持っている一方、実際に出せるかどうかは、品目ごとの検疫条件と、日本と異なる残留農薬基準で決まります。しかもその条件は品目によって断絶しています。りんご・なし・もも・すももの4品目は、園地と選果場を毎年登録しなければ一箱も出せません。ぶどう・いちご・かきは登録不要ですが、いちごは残留農薬で毎シーズンのように全ロット検査の対象になっています。

本記事では、台湾向けの果物輸出を検討する生産者・JA・産地商社・自治体の担当者に向けて、品目ごとの難易度の違い、4品目の登録制度の中身、残留農薬の実務、台湾側の通関と表示、品目別の売り方までを、一次資料に基づいて整理します。


本記事のデータについて

  • 市場データは、公益財団法人日本台湾交流協会(農林水産物・食品輸出支援プラットフォーム(台湾))「台湾への農林水産物・食品の輸出に関する品目別レポート(果物類)」(2026年3月)を主に参照しています。同レポートは、台湾の農業部「農業貿易統計」・財政部関務署「海関進出口統計」と、台湾の輸入商・小売・外食10社への聞き取り、2025年12月〜2026年2月中旬の店頭調査で構成されています。

  • 日本側の輸出額は農林水産省「2025年 農林水産物・食品の輸出額」(財務省貿易統計の確々報値に基づく修正版)と、上記レポートが引用する農林水産省統計を使っています。

  • 検疫条件は、農林水産省植物防疫所「台湾向け生果実検疫実施要領」(最終改正 令和8年3月31日 7消安第7570号)の条文に基づいています。

  • 日本の輸出統計(円建て・財務省)と台湾の輸入統計(米ドル建て・台湾農業部)は、計上基準も通貨も異なります。本記事では両者を同じ表で比較せず、それぞれの統計の中でだけ比較しています。

  • 原典の図表は転載せず、数値から独自に整理しています。原典にない数値の推定補完はしていません。


結論:果物の台湾輸出は「品目」で難易度が決まる

先に全体像を示します。

  • 【りんご・なし・もも・すもも】生産園地・選果技術員・選果こん包施設の毎年の登録が必須/台湾側検査官の現地査察あり/モモシンクイガが見つかると県単位・全国単位で輸出が止まる

  • 【いちご】登録は不要/ただし残留農薬の違反が最も多い品目で、台湾側が全ロット検査(逐批查驗)を繰り返し発動している

  • 【ぶどう・かき・かんきつ・メロン・さくらんぼ】登録は不要/植物検疫証明書と台湾の残留農薬基準への適合が条件


台湾向け果物輸出の条件を3段階で示した図。りんご・なし・もも・すももは園地と選果場の登録が必要、いちごは残留農薬で全ロット検査が多い、その他は植物検疫証明書と残留農薬基準への適合が条件

図A:台湾向け果物輸出の品目別の条件。出典:農林水産省植物防疫所「台湾向け生果実検疫実施要領」、ジェトロ「青果物の輸入規制、輸入手続き(台湾)」、日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)をもとに作成。


「果物を台湾に出したい」という相談の最初の分岐は、品目がこのどこに入るかです。4品目であれば、出荷シーズンの数か月前から県と植物防疫所を通じた登録手続きが始まっていなければ間に合いません。いちごであれば、登録ではなく防除の設計から見直す必要があります。

出典:農林水産省植物防疫所「台湾向け生果実検疫実施要領」、ジェトロ「青果物の輸入規制、輸入手続き(台湾)」、日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)


1. 台湾で日本の果物はどこにいるか


日本側から見た台湾の比重

農林水産省統計に基づく2024年の台湾向け輸出は次のとおりです(日本台湾交流協会レポートの整理による)。

  • 【りんご】156.0億円(25,924トン)/世界全体に占める台湾の構成比77.5%/国・地域別1位

  • 【ぶどう】34.8億円(1,323トン)/58.6%/1位

  • 【もも】5.9億円(414トン)/20.0%/2位

  • 【いちご】5.8億円(191トン)/10.8%/2位

  • 【かんきつ】4.8億円(544トン)/32.4%/2位

  • 【かき】4.8億円(190トン)/42.5%/1位

  • 【かんしょ】2.4億円(447トン)/6.6%/4位

  • 【なし】2.2億円(248トン)/21.3%/2位


2024年の台湾向け果物輸出額の横棒グラフ。りんごが156.0億円で突出し、ぶどう34.8億円、もも5.9億円、いちご5.8億円と続く

図B:2024年の台湾向け果物輸出額と、各品目の輸出全体に占める台湾向けの割合。出典:日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)が引用する農林水産省統計。


りんごが突出しています。2024年時点で日本のりんご輸出の8割弱は台湾向けで、台湾の需要が崩れれば日本のりんご輸出そのものが崩れる構造です。


台湾側から見た日本の位置

同じ市場を、台湾側の輸入統計(農業部「農業貿易統計」、米ドル建て)で見ると、景色が変わります。2025年の品目別の輸入先を整理すると、次のようになります。

  • 【うんしゅうみかん(生鮮)】日本が金額の98%。ほぼ日本の独占

  • 【かき(生鮮)】日本が86%

  • 【いちご(生鮮)】日本が金額で57%の1位(759万ドル)。前年の376万ドルから倍増し、米国を抜いた

  • 【りんご(生鮮)】日本は金額で19%の3位(5,442万ドル)。ニュージーランド(36%)と米国(29%)に次ぐ

  • 【ぶどう(生鮮)】日本は金額で12%の4位(1,719万ドル)。米国(33%)、韓国(23%)、ペルー(13%)に次ぐ

  • 【もも(生鮮)】日本は13%の2位。米国が84%

  • 【なし(その他の生鮮なし)】韓国が91%。日本は9%

  • 【メロン(生鮮)】米国が82%。日本は17%


日本の果物は、台湾市場で「全部が強い」わけではありません。みかん・かき・いちごでは主役ですが、りんごとぶどうでは輸入先の一つに過ぎず、なしでは韓国がほぼ市場を押さえています。

出典:日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)。日本側の数値は同レポートが引用する農林水産省統計、台湾側の数値は台湾農業部「農業貿易統計」による。両者は通貨・計上基準が異なるため直接比較はできない


2. 2025年の「りんご58億円減」を読み直す

冒頭の58億円減は、台湾の輸入統計でも裏づけられます。台湾の生鮮りんごの日本からの輸入は、2024年の24,112トン・7,430万ドルから、2025年は19,200トン・5,442万ドルに減りました。数量で約2割、金額で約27%の減少です。

一方、同じ2025年にニュージーランドからの輸入は3万1,126トンから4万5,568トンに増え、金額でも1億284万ドルと首位に立ちました。2024年に金額2位だった日本は3位に下がっています。


台湾の生鮮りんご輸入額の比較グラフ。2024年は米国、日本、ニュージーランドの順だったが、2025年はニュージーランドが首位になり日本は3位に下がった

図C:台湾の生鮮りんご輸入額の上位3か国(2024年・2025年)。出典:日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)、原データは台湾農業部「農業貿易統計」。


農林水産省の説明は、台湾向けの春節需要期のずれと、高温・雪害で贈答用の大玉で見栄えの良いものが確保できなかったこと、です。台湾の消費者が日本のりんごから離れたという説明ではありません。台湾側の聞き取りでも、日本産りんごは「りんご=青森」というブランドが定着した中心品目として評価され続けています。

では何が起きたのか。台湾の春節ギフト市場は、日本産が品薄でも止まりません。空いた棚は、南半球産と米国産で埋まります。日本産が失ったのは需要ではなく、棚でした。

この読み方は、輸出を考える側にとって重要です。台湾のりんご市場で日本産が負けるのは、台湾の消費者に選ばれなかったときではなく、日本側が春節に間に合う数量と規格を揃えられなかったときです。そして棚は一度埋まると、翌年も同じ輸入商が同じ調達先から入れる可能性があります。

台湾側のバイヤーからは、もう一つ示唆的な声が出ています。複数の小売業者が「中価格帯の品種の拡充」を要望しています。日本産りんごは贈答用の大玉で評価されてきましたが、その大玉が天候で揃わない年には、代わりに出せる中価格帯・中玉の商品がなければ、棚をそのまま明け渡すことになります。

出典:農林水産省「2025年 農林水産物・食品の輸出額」(財務省貿易統計の確々報値に基づく修正版)、日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)


3. りんご・なし・もも・すもも:登録なしでは出せない4品目


なぜこの4品目だけなのか

日本のりんご・なし・もも・すももには、モモシンクイガ(学名 Carposina sasakii)という果実に食入する害虫が寄生します。台湾にはこの害虫がいないため、台湾は日本との二国間協議で、この4品目に特別な検疫条件を課しています。植物防疫所の「台湾向け生果実検疫実施要領」がその運用を定めています。

要領上の定義は次のとおりです。りんごはMalus属、なしはPyrus属、ももはPrunus persica、すももはPrunus americana・P. domestica・P. salicinaです。輸出年度は1月1日から12月31日までで、登録は毎年やり直します。


登録するのは3つ

① 生産園地:選果こん包施設の責任者が、出荷する園地を毎年取りまとめて都道府県に提出し、都道府県が登録します。要件は3つあります。

  • 園地が選果こん包施設と同じ都道府県内にあること

  • 都道府県の機関や生産者団体の防除指導に従って、モモシンクイガの防除が行われていること

  • その防除の状況が記録され、保管されていること


隣県の選果場に持ち込む形の出荷は、この要件を満たせません。

② 選果技術員:選果こん包施設には、モモシンクイガなどの寄生果を見分ける選果技術員を置く必要があります。植物防疫官が識別研修を行い、修了者を登録します。選果作業の際は、登録された選果技術員が少なくとも1人いなければなりません。

③ 選果こん包施設:施設の責任者が都道府県に申請し、都道府県が一覧表にまとめて植物防疫所に提出します。この提出期限が実務上の最大の締切です。

  • 【もも・すもも】3月20日、または輸出開始予定日の40日前のいずれか早い日

  • 【なし・りんご】6月20日、または輸出開始予定日の40日前のいずれか早い日


台湾向けりんご・なし・もも・すももの年間スケジュール。もも・すももは3月20日、なし・りんごは6月20日が施設一覧の提出期限で、4月から10月はトラップ調査が必要

図D:台湾向けりんご・なし・もも・すももの登録スケジュール。出典:農林水産省植物防疫所「台湾向け生果実検疫実施要領」(最終改正 令和8年3月31日)、青森県「令和8年産台湾向け生果実検疫実施要領及び登録申請について」。


施設の要件は、4月1日から10月31日の間に選果前の果実をモモシンクイガが入れない場所で保管できること、選果と検査に十分な照明と設備があること、夜間作業をする場合は開口部を閉鎖するか防虫網で覆うこと、です。

たとえば青森県は、令和8年産の台湾向けりんごの選果こん包施設の申請書類を、2026年5月15日までに県へ提出するよう求めていました。県の締切は、国の期限より前に置かれます。


選果・こん包で守ること

登録施設での作業には、細かい条件が付いています。

  • 登録園地で生産された果実だけを選果する

  • 作業前に施設を清掃する

  • 4月1日から10月31日は、搬入口・選果レーン・こん包レーン・保管場所に粘着式トラップを置いて調査し、記録する。モモシンクイガが見つかれば施設を消毒する

  • こん包容器は未使用のものを使う。原則として密閉式で、通気孔を設ける場合は直径1.6ミリ以下

  • 同じ期間は、登録園地の果実とそれ以外の果実を同時にこん包しない

  • 各こん包の側面に台湾向けの表示をする


作業後、施設の責任者は選果こん包実施報告書を2部作成し、1部を輸出者に渡し、1部を植物防疫官に提出します。関係書類は2年間の保管義務があります。


台湾の検査官が日本に来る

この制度で見落とされやすいのが、台湾の植物検疫当局の検査官による現地査察です。農林水産省はもも・すももについては4月に、なし・りんごについては7月に台湾側に検査官の派遣を要請し、検査官が登録園地と登録施設を査察します。

その招へい費用(往復航空運賃、国内移動費、通訳費、滞在費、送迎費など)は、登録選果こん包施設の責任者等が負担し、招へいの事務も行うと要領に明記されています。関係団体に事務を委任することはできますが、費用負担そのものは産地側にあります。


輸出検査の中身

輸出時には植物防疫官が目視検査を行います。生産県・登録施設・品目・品種が同じものを一つの検査単位とし、5,000果以上の荷口では2%以上、5,000果未満では100果以上(100果未満なら全果)を、3箱以上から無作為に抽出します。

検査の対象は、モモシンクイガ、ミカンキイロアザミウマ、果実に食入するチョウ目の害虫などの寄生がないこと、そして各こん包に台湾向け表示があることです。合格すると、植物検疫証明書に「登録施設で包装され、モモシンクイガとミカンキイロアザミウマが検出されなかった」旨の英文が追記されます。

証明書の交付から14日を過ぎても輸出しなかった果実は、改めて検査を受ける必要があります。


一つの荷口が、県全体を止める

この制度の最も重い点は、違反の影響が一施設にとどまらないことです。

  • 日本の輸出検査でモモシンクイガが見つかった場合、その荷口は不合格で再検査は認められません。同じ施設の検査と証明書交付も止まり、原因究明と改善が終わるまで施設の登録が取り消されます

  • 台湾の輸入検査でモモシンクイガが見つかった場合、その年度1回目であっても、寄生果が生産された都道府県内のすべての生果実について植物検疫証明書の交付が止まります。県内の全登録施設と全登録園地の登録も一時的に取り消されます

  • 同じ年度に2回目の発見があると、全国の台湾向け生果実の証明書交付が止まります


モモシンクイガ発見時の停止範囲を示す図。日本の検査で見つかれば当該施設、台湾で1回目なら県全体、2回目なら全国の台湾向け出荷が止まる

図E:モモシンクイガが見つかった場合の輸出停止の範囲。出典:農林水産省植物防疫所「台湾向け生果実検疫実施要領」(最終改正 令和8年3月31日)。


つまり、ある産地の一箱の見落としが、同じ県のすべての産地の、場合によっては全国のシーズンを止めます。自治体が台湾向け果物輸出を支援する際、登録手続きの取りまとめだけでなく防除指導と記録の徹底に関与するのは、この構造があるからです。

出典:農林水産省植物防疫所「台湾向け生果実検疫実施要領」(最終改正 令和8年3月31日)、青森県「令和8年産台湾向け生果実検疫実施要領及び登録申請について」


「自社(自団体)の品目が登録制の4品目に当たるのか」「台湾の残留農薬基準に合わせて防除をどこまで変える必要があるのか」といった段階からでもかまいません。

初回のご相談は無料です。該当の有無と、必要な手続きの見通しをお伝えします。


4. それ以外の果物:登録は不要、証明書は必要

ぶどう・いちご・かき・かんきつ・メロン・さくらんぼなどは、二国間協議による登録制度の対象ではありません。園地や選果場を事前に登録する必要はありません。

ただし、日本の植物防疫所が発行する植物検疫証明書は必要です。日本台湾交流協会のレポートは、同レポートが対象とした12品目(りんご、ぶどう、もも、みかん、かき、いちご、かんしょ、なし、すいか、メロン、さくらんぼ、レモン)について、いずれも輸出国の植物検疫当局が発行する証明書の提出が必要だと整理しています。証明書は台湾到着時に、台湾の農業部動植物防疫検疫署に提出されます。

台湾側の輸入植物検疫では、書類審査と現場検疫を経て、病害虫が見つかれば燻蒸などの消毒処理、または廃棄・返送になります。輸入の可否と条件は、台湾の動植物防疫検疫署の検索システムで、学名と輸入部位を入力して確認できます。

また、土や土の付いた植物、その包装・容器は台湾の植物防疫検疫法で輸入が禁止されています。収穫時に土が付きやすい品目では、選果段階での除去が前提です。

出典:日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)、ジェトロ「青果物の輸入規制、輸入手続き(台湾)」


5. 最大の関門は残留農薬


ポジティブリスト制度

台湾の残留農薬基準は「農藥殘留容許量標準」で定められています。ポジティブリスト制度のため、基準値が設定されていない農薬は「不検出」でなければなりません。

日本で登録されていて使える農薬でも、台湾でその作物に対する基準値がなければ、わずかでも検出されれば違反です。日本と台湾で基準値が異なり、台湾のほうが低い農薬もあります。茶葉で同じ構造が起きている例は台湾で止められる日本茶|残留農薬基準と輸出実務2026で解説しています。


検査の部位が違う

見落とされやすいのが、残留農薬を測る部位の違いです。台湾当局が定める検査部位は、たとえば次のとおりです。

  • 【りんご・なし・かき】種を取り除かない果実全体

  • 【もも・うめ・さくらんぼなど核のある果物】果柄と種(核)を除いた果実全体

  • 【かんきつ】果実全体

  • 【ぶどう・いちご】茎と葉を除いた果実部分。いちごはがく(へた)を含む


台湾の残留農薬検査部位の表。りんご・なし・かきは果実全体、ももなど核果は果柄と種を除いた果実、いちごはがくを含めて検査する

図F:台湾当局が定める果物の残留農薬検査部位(抜粋)。出典:日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)、原典は台湾「農藥殘留容許量標準」附表五ほか。


日本で自主検査をしていても、台湾と違う部位・違う分析法で測っていれば、結果は台湾での判定と一致しません。日本台湾交流協会のレポートは、台湾当局が定める方法で検査することの重要性を指摘しています。


いちごが3年続けて最多

同レポートによると、台湾の水際検査で残留農薬の基準超過とされた日本産青果物は、2024年以降、いちごが3年続けて最も多くなっています。

  • 【2024年】いちご32件、みかん18件、メロン10件、きんかん7件

  • 【2025年】いちご22件、きんかん22件、メロン13件、みかん5件

  • 【2026年(2月末時点)】いちご10件、みかん3件、メロン3件


台湾で残留農薬の基準超過とされた日本産青果物の件数の棒グラフ。2024年から3年続けていちごが最も多い

図G:台湾の水際検査で残留農薬の基準超過とされた日本産青果物の件数。出典:日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)、原データは台湾衛生福利部「邊境檢驗不符合食品資訊」。


台湾の衛生福利部食品薬物管理署(食藥署)は、違反の多い品目について、抽出比率を上げる強化検査や、全ロットを検査する「逐批查驗」を発動します。日本産の生鮮いちごには、これが繰り返し適用されてきました。

  • 2022年2月21日から6か月間、日本産いちごを全ロット検査の対象に(衛生福利部の発表)

  • 台湾の報道によれば、食藥署は2023年6月から日本産いちごに監視査験(全ロット検査)を適用し、2025年のシーズンも5月末まで継続するとしていた

  • 2026年1月6日には、直近半年で215ロット中12ロット(約5.6%)が不合格だったとして、2月5日まで全ロット検査が発動された(台湾各紙が食藥署の説明として報道)


全ロット検査では、検査結果が出るまで通関できません。鮮度が命のいちごにとって、この数日は品質劣化に直結します。


それでも日本のいちごは伸びている

注目すべきは、この状況下でも日本産いちごの台湾での存在感が高まっていることです。台湾の輸入統計では、2025年の日本産生鮮いちごの輸入額は759万ドルで、前年の376万ドルから倍増し、米国を抜いて首位になりました。台湾の小売店頭では、奈良の古都華が1パック1,400台湾ドル、福岡のあまおうが1パック550〜750台湾ドルで売られており、台湾産の大湖いちご(1パック279〜520台湾ドル)とは明確に別の価格帯にあります(2025年12月〜2026年2月中旬の店頭調査)。

需要は強い。だからこそ、残留農薬で止められることの損失が大きいのです。


日本側の対応策

対応の方向は、日本国内でも整理されています。

  • 農林水産省は、主要な輸出先の残留農薬基準値と日本の基準値を比較できる資料を公開しています。対象品目にはりんご、ぶどう、もも、なし、かんきつ、いちご、かき、メロンなどが含まれます

  • 農林水産省の事業を基に、一般社団法人日本青果物輸出促進協議会が台湾の残留農薬基準値に対応した生果実(いちご)の病害虫防除マニュアルを作成しています

  • 同協議会は「台湾の残留農薬基準に対応したいちごの栽培に取り組むグループ」を設け、防除方法の見直し、使用農薬の検討、使用履歴の確認、出荷前の残留農薬検査などに取り組む事業者を紹介しています


台湾側でも動きはあります。食藥署は2024年1月、日本産いちごでよく使われる農薬4種を含む基準値の新設・改正を予告しました。日本で使う農薬に台湾で基準値が設定されれば、「不検出」基準の制約は緩みます。ただし、個別の農薬がいつ、どの値で設定されたかは、輸出の都度、台湾の最新の基準で確認する必要があります。

出典:日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)、衛生福利部「外界關切『日本草莓農藥超標』」、台湾中央通訊社(2024年1月24日)、農林水産省「諸外国における残留農薬基準値に関する情報」「輸出相手国の残留農薬基準に対応した病害虫防除マニュアル」、日本青果物輸出促進協議会


6. 台湾側の通関と表示


震災関連の規制は撤廃済み

2011年の東京電力福島第一原子力発電所事故以降、台湾は日本産食品に輸入規制を課してきました。2025年11月21日以降、福島・茨城・栃木・群馬・千葉の5県産食品に求められていた放射性物質検査報告書と、日本産すべての食品への産地証明書の添付が不要になりました。

日本語の解説記事の中には、まだ5県の規制や産地証明書を前提に書かれたものがあります。2025年11月以前の情報で準備を進めないよう注意してください。


必要なのは台湾側の輸入者

台湾に果物を入れるには、台湾側に輸入者が必要です。輸入時には、植物検疫と、食藥署による食品としての輸入査験の両方を通ります。査験では書類審査、包装・外観・表示の確認、抜き取りによる検査が行われ、残留農薬の検査もここで行われます。


中文表示

台湾の食品安全衛生管理法に基づき、包装された食品には中文(繁体字)で品名、内容物、正味重量、製造業者または台湾内の責任業者の名称・電話・住所、原産地、有効期限などを表示する必要があります。生鮮果物については、次の点が実務上の要点です。

  • ばら売りや簡易包装の果物は、シールや値札などで品名と原産地を中文で表示すればよい

  • その他の成分を加えていない生鮮・冷蔵・冷凍の果物は、栄養表示を省略できる(栄養強調表示をする場合を除く)

  • カット果物や冷凍果物で、会社登記している食品販売業者が販売するものは、包装食品としての表示項目がほぼすべて必要になる


関税と営業税

台湾の関税率は品目ごとに異なり、りんごは20%です(首相官邸の輸出拡大戦略資料による。出荷前にCCCコードで最新の税率を確認してください)。これに加えて営業税5%がかかります。りんご以外の品目の税率は、台湾固有の11桁のCCCコードで、財政部関務署の税則税率検索で確認してください。関税を含めた価格の組み立て方は台湾への輸出にかかる関税・コスト・価格設定ガイドで扱っています。


通関にかかる日数

台湾の輸入商・小売への聞き取りでは、通関・検疫に要する日数の回答は1〜7日と幅があり、りんごやなしでは3〜7日という回答が目立ちます。全ロット検査の対象になれば、さらに延びます。コールドチェーンを切らさないことが、すべての品目で共通の前提です。

台湾向けの輸送手段の選び方や書類の揃え方は、台湾へどう送るか|EMS・クーリエ・混載・コンテナの使い分けで解説しています。

出典:ジェトロ「青果物の輸入規制、輸入手続き(台湾)」、日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)、首相官邸「国・地域別の農林水産物・食品の輸出拡大戦略(台湾)」


7. 品目別の攻め方

台湾のバイヤーへの聞き取りから見える、品目ごとの勝ち筋と注意点です。どの品目でも共通するのは、日本産は数量ではなく贈答・高級市場で戦っているという点ですが、その中身は品目によって違います。


りんご:日常消費にまで入った唯一の品目

「りんご=青森」というブランドが定着し、贈答だけでなく家庭消費にも浸透しています。台湾ではりんごの商業栽培がほぼなく、競合は米国・ニュージーランド産です。ふじに加え、王林(青りんご)への関心が高まり、トキ、シナノスイート、名月などの取り扱いもあります。

バイヤーからの要望は、中価格帯の品種の拡充と、ふじ偏重からの脱却です。天候で贈答用の大玉が揃わなかった2025年の経験を考えれば、中玉・中価格帯の品揃えは、単なる要望ではなく棚を守る手段です。


ぶどう:シャインマスカットの独占は終わった

シャインマスカットは台湾で最も認知された日本産果物の一つです。ただし2025年の台湾の輸入統計では、韓国産ぶどうが金額で2位に上がり、日本は4位に下がりました。店頭では韓国産シャインマスカットが450グラム330台湾ドル前後で売られ、長野産の1房1,288台湾ドルと並んでいます。

関心はナガノパープルなどの紫系や、産地ブランドの付いた品種に移りつつあるという声があります。輸送中の脱粒を防ぐ包装の強化も、繰り返し挙がっている要望です。


もも:夏と中秋節の贈答品

山梨・岡山の白桃が贈答用として評価され、取扱量・単価とも増加傾向との回答が多くあります。一方で、果皮が傷みやすく、通関の遅れがそのまま腐敗リスクになります。4品目の登録制度の対象で、登録期限が3月20日と早いことにも注意が必要です。


いちご:需要は最大級、リスクも最大級

あまおう、とちおとめ、古都華、白いちごなどが高く評価され、若年層のSNS需要も追い風です。一方で、前章のとおり残留農薬の違反が最も多く、全ロット検査の対象になりやすい品目です。台湾基準に対応した防除体系を組んでいない産地が、単発で出荷するのは避けるべきです。


かんきつ・かき:日本がほぼ独占、ただし形が違う

うんしゅうみかんの台湾の輸入は、ほぼ日本産です。愛媛・和歌山・熊本などのみかんや、紅まどんな、せとか、きんかんが冬の贈答品として扱われています。ただし、みかんときんかんも残留農薬の超過件数が多い品目です。

かきは、生柿では台湾産が優勢で、日本産の生柿の流通は減っています。代わりに、市田柿などの干し柿が台湾のドライフルーツ文化に合う商品として定着しています。かきを台湾に出すなら、生果より干し柿を軸に考えるのが現実的です。


なし・メロン:韓国産と台湾産が強い市場

なしは台湾の輸入の9割超が韓国産で、日本産は二十世紀、新高、南水などが秋の贈答品として限定的に流通しています。メロンは台湾産の品質向上と韓国産の存在感が指摘され、日本産は静岡のクラウンメロンなどが法人ギフトの最上位で売られています。どちらも価格帯の多様化を求める声があります。


加工原料としての可能性

台湾の加工事業者への聞き取りでは、日本産果物を冷凍・ジャム・菓子の原料として使うことに一定の関心が示されています。ただし、価格は台湾産の2〜5倍になることが多く、量産用途には向かないという評価です。限定商品や、日本産であることが価値になる高価格帯の商品に絞った提案が現実的です。

出典:日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)。店頭価格は2025年12月〜2026年2月中旬の同協会調査による


8. 誰が何をするのか

果物の台湾輸出は、生産者一人では完結しません。関係者ごとの役割を整理します。

  • 【生産者】防除暦に従った防除と記録。台湾向けに出すなら、台湾の基準値に合わせた防除設計への変更

  • 【JA・選果場・産地商社】4品目の場合、選果こん包施設の登録申請、選果技術員の配置、トラップ調査、実施報告書の作成、台湾側検査官の招へい費用の負担

  • 【都道府県】生産園地の登録、選果こん包施設一覧の植物防疫所への提出、防除指導。モモシンクイガが台湾で見つかった場合の原因究明と改善報告

  • 【輸出者】植物検疫の申請と証明書の取得、輸送手配

  • 【台湾側の輸入者】植物検疫と食品輸入査験の申請、中文表示


台湾向け果物輸出の役割分担図。生産者、JAや選果場、都道府県、輸出者、台湾側の輸入者それぞれの役割を示している

図H:台湾向け果物輸出の関係者と役割。出典:農林水産省植物防疫所「台湾向け生果実検疫実施要領」、日本台湾交流協会「品目別レポート(果物類)」(2026年3月)をもとに作成。


4品目では、登録の取りまとめを都道府県が担い、違反の影響が県全体に及びます。台湾向けの果物輸出は、個々の生産者の販路開拓であると同時に、産地と自治体の仕事でもあります。

台湾の輸入者との取引条件の決め方は、台湾のバイヤー・代理店・ディストリビューターと組む実務ガイドで扱っています。


よくある失敗


登録の期限を過ぎてから動き出す

もも・すももは3月20日、なし・りんごは6月20日(またはそれぞれ輸出開始予定日の40日前)が国への提出期限です。県の締切はさらに前です。台湾のバイヤーから引き合いを受けてから準備を始めても、その年のシーズンには間に合わないことがあります。


隣県の選果場に持ち込む

4品目の生産園地は、選果こん包施設と同じ都道府県内にある必要があります。


日本の基準で残留農薬を確認して安心する

日本で登録されている農薬でも、台湾で基準値がなければ不検出が求められます。検査部位も日本と異なります。


震災関連の古い情報で書類を準備する

2025年11月21日以降、放射性物質検査報告書と産地証明書は不要です。


贈答用の大玉しか用意しない

天候で大玉が揃わない年には、台湾の棚は他国産で埋まります。中玉・中価格帯の選択肢を持つことが、棚を守る手段になります。


まとめ

  • 台湾は日本の果物の最大の輸出先で、2024年はりんご輸出の77.5%が台湾向けだった

  • 2025年のりんご輸出58億円減は、需要ではなく供給の問題。空いた棚はニュージーランド産と米国産が埋めた

  • りんご・なし・もも・すももは、生産園地・選果技術員・選果こん包施設の毎年の登録が必須。台湾側検査官の招へい費用は産地側の負担

  • 台湾でモモシンクイガが見つかると、1回目で県全体、2回目で全国の台湾向け出荷が止まる

  • それ以外の果物は登録不要だが、植物検疫証明書と台湾の残留農薬基準への適合が条件

  • 残留農薬はポジティブリスト制度で、基準値のない農薬は不検出。いちごは違反件数が最多で、全ロット検査が繰り返されている

  • 2025年11月21日に震災関連の輸入規制は撤廃された


台湾の消費者は、日本の果物に高いお金を払い続けています。出せるかどうかを決めるのは台湾の需要ではなく、日本側の登録・防除・供給の準備です。

食品全般の台湾輸出の手続きは台湾への食品輸出完全ガイド2026、水産物は水産物の台湾輸出2026、商材別の難易度の全体像は食品・調味料の輸出 完全ガイドマップ2026でまとめています。


よくある質問


台湾にりんごを輸出するには何が必要ですか

生産園地・選果技術員・選果こん包施設の3つを毎年登録する必要があります。園地は選果こん包施設と同じ都道府県内にあり、モモシンクイガの防除が記録されていることが条件です。都道府県から植物防疫所への施設一覧の提出期限は、6月20日または輸出開始予定日の40日前のいずれか早い日です。


いちごやぶどうを台湾に輸出するのに登録は必要ですか

園地や選果場の登録は必要ありません。登録制の対象はりんご・なし・もも・すももの4品目です。ただし植物検疫証明書は必要で、台湾の残留農薬基準にも適合しなければなりません。


台湾の残留農薬基準は日本とどう違いますか

台湾はポジティブリスト制度で、基準値が設定されていない農薬は不検出でなければなりません。日本で使える農薬でも、台湾でその作物に基準値がなければ違反になります。検査部位も異なり、いちごはがくを含めて測定されます。


日本産いちごが台湾で全ロット検査になるのはなぜですか

残留農薬の違反が多いためです。台湾の食藥署は違反の多い品目に全ロット検査(逐批查驗)を適用し、日本産生鮮いちごには2022年以降、繰り返し発動されています。2026年1月には、直近半年で215ロット中12ロットが不合格だったとして、2月5日まで全ロット検査が行われました。


福島県などの果物は台湾に輸出できますか

2025年11月21日以降、福島・茨城・栃木・群馬・千葉の5県産食品に求められていた放射性物質検査報告書と、日本産食品への産地証明書は不要になりました。他の都道府県産と同じ条件で、植物検疫と残留農薬の要件を満たせば輸出できます。


台湾でりんごの関税はいくらですか

りんごの関税率は20%で、これに営業税5%がかかります。他の果物の税率は品目ごとに異なるため、台湾のCCCコードで確認してください。


台湾向けの果物輸出を、品目の選定・登録手続きの段取り・台湾側の輸入者探しまで含めて検討されている方は、お気軽にご相談ください。

コメント


浜松町ダイヤビル 2F

株式会社Link Global​

〒105-0013

東京都港区浜松町2丁目2番15号

© 2024-2026 株式会社Link Global

  • LinkedIn
bottom of page