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中国向け越境ECの制度ガイド2026|4モデル・ポジティブリスト・関税0%の条件と「GACC登録不要」の正しい根拠

  • 堤浩記
  • 8月15日
  • 読了時間: 26分

中国で日本の食品を売る方法は、ひとつではありません。一般貿易で輸入するのか、越境ECで売るのか。この選択によって、必要な手続きが根本的に変わります。


弊社の中国への食品輸出 完全ガイド2026では一般貿易ルートを扱いました。GACC登録、中文ラベル、GB規格への適合。いずれも避けて通れない要件です。ところが越境ECでは、この3つの要求が変わります。


「だから越境ECのほうが簡単」と説明されることが多いのですが、その根拠を誤解したまま進めると危険です。本記事では制度の骨格を整理したうえで、なぜ要求が軽くなるのか、その法的な建て付けまで踏み込みます。


本記事のデータについて

本記事の制度解説は、日本貿易振興機構(ジェトロ)農林水産食品部市場開拓課およびジェトロ・上海事務所による調査レポート「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月発行・全28ページ・農林水産省補助事業)に基づいています。同レポートは北京市環球法律事務所に委託して作成されたもので、根拠となる中国法令の原文リンクが逐条で示されています。

ただし同レポートの発行後に、中国の関連法令に重要な変更がありました。本記事では変更点を一次情報で確認し、レポートの記述との差分を明示しています。原典の図表は転載せず、記述を要約・再構成しています。


【最重要】280号令は越境ECを「適用範囲の外」に置いた

ここが本記事でいちばん重要な部分です。他の解説記事とも、原典のジェトロ報告書とも記述が変わるところなので、順を追って説明します。


報告書が書いていたこと

一般貿易では、中国向けに輸出する食品の製造・加工または貯蔵・保管施設は、中国税関総署への事前登録が義務です。いわゆるGACC登録です。では越境ECではどうなるか。


ジェトロ報告書は、根拠法である「輸入食品海外製造企業登録管理規定」が一般貿易方式を対象としており、越境EC方式に適用されるか否かは明確に示されていない、と整理しています。そのうえで実務上の答えを2つの経路で確認していました。

  • 農林水産省「中国向け輸出農林水産物・食品の施設認定申請に関するQ&A」に、現行政策上は越境ECによる輸入食品の海外製造企業は登録を要しないため、登録番号の表示は不要であるとの情報が中国当局よりあった、と記述されている

  • ジェトロが複数の税関に電話で問い合わせたところ、越境EC輸入の場合は当該登録手続は不要との回答が得られた


さらに報告書は、2025年1月3日に改正意見募集稿が発表され、郵送・速達・越境EC小売・旅行者が携行する食品などについては製造企業登録を免除すると規定されている、と書いています。ただし「現時点では意見募集稿の段階であることから、同規定の改正動向について注視することが望ましい」と留保をつけていました。


その後、規定は実際に改正された

この意見募集稿は正式な法令になりました。海関総署令第280号「中華人民共和国海関輸入食品境外生産企業登録管理規定」が2025年10月14日に公布され、2026年6月1日から施行。同時に、5年近く運用されてきた248号令は廃止されました。


問題は、最終条文が意見募集稿と同じ書き方になっていないことです。280号令の第30条(附則)第3項は、次のように定めています。

「跨境电子商务零售进口食品境外生产企业管理要求,按照有关规定办理。」

訳すと「越境電子商取引小売輸入食品の境外生産企業の管理要求は、関連規定に従って処理する」です。


つまり280号令は、越境ECを「免除した」わけではありません。越境EC小売輸入食品を自らの適用対象から外し、別の規定に委ねたのです。意見募集稿の「免除する」という文言は、最終条文には残りませんでした。


実務上、何が言えるのか

整理するとこうなります。

  • 運用としては「登録不要」が確認されている:農水省Q&A(中国当局からの情報)と、ジェトロによる複数税関への照会結果が一致している

  • しかし法令が明文で免除しているわけではない:280号令第30条は越境ECを適用範囲外とし、内容を「関連規定」に委ねている。ここでいう関連規定は486号通知・194号公告などを指すと読むのが自然だが、条文上の指示は具体名を欠く

  • だから輸入予定港を管轄する税関への確認が手順に入る:報告書も繰り返し「地域により見解が異なる可能性があるため、輸入(予定)港を管轄する税関に直接問い合わせすることが必要」と書いている

海関総署令280号が越境ECを適用範囲外に置いた経緯の図。2025年1月の改正意見募集稿、2025年10月14日公布、2026年6月1日施行と第30条第3項の条文

280号令が越境ECを適用範囲の外に置いた経緯と条文。意見募集稿にあった「免除する」の文言は最終条文に残っていない。(出典:海関総署令第280号〈2026年6月1日施行〉第30条、およびジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


「越境ECならGACC登録は不要です」と断言している解説を見かけたら、その根拠が280号令のどの条文なのかを確認してください。少なくとも280号令本体には、免除を明示した規定はありません。280号令の内容そのものについては中国への食品輸出 完全ガイド2026で、官方推薦が必要な17品目や登録番号の表示ルールまで解説しています。


出典:海関総署令第280号(2025年10月14日公布・2026年6月1日施行)第30条。日本語仮訳は農林水産省「中国向け輸出食品の製造等企業登録に係る規制への対応について」に掲載。越境EC制度の記述はジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月)による。


4つのモデル──どれを使うかで、すべてが変わる

中国の越境ECは、単一の制度ではありません。中国消費者向けの越境EC輸入は4つに分類され、税関監督管理方式コードで区別されています。


  • 直送モデル(コード9610):商品は受注前は中国国外に保管され、注文を受けてから国際輸送で中国の税関監督管理区域へ送られ、通関して輸入される。適用地域は中国本土全域

  • 保税区モデル(コード1210):税金を留保したまま保税区などに在庫を置き、注文を受けてから通関・出荷する。適用地域は越境EC輸入の試行が認められている税関特別監督管理区域と保税物流センター(B型)のみ

  • 保税区モデルA(コード1239):仕組みは保税区モデルと同じだが、適用地域は越境EC輸入の試行が認められていない税関特別監督管理区域・保税物流センター(B型)

  • 海淘モデル(個人行郵):中国国外で運営されるECプラットフォーム上で注文し、国際宅配便などで消費者の自宅まで直接配送される。税関監督管理方式コードは付番されず、税関法上の「出入境物品」として管理される

中国消費者向け越境EC輸入の4モデル比較。直送モデル9610、保税区モデル1210、保税区モデルA1239、海淘モデル。適用地域と在庫の置き場所の違い

中国消費者向け越境EC輸入の4分類。前3者は税関監督管理方式コードが付番される税関特別監督管理モデル、海淘モデルはコードがなく税関法上の「出入境物品」として管理される。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


前3者を総称して「税関特別監督管理モデル」と呼びます。この3つは規制上共通する部分が多いのですが、適用取引・適用地域、中国の食品規格基準適合の要否、特定品目の商品登録の要否、通関に必要な書類は異なります。


在庫を中国国内の保税区に置けるかどうかが、配送スピードと在庫リスクの分岐点になります。一方で、後述するように直送モデルでは輸入できず保税区モデルなら輸入できる品目もあるため、扱う商品によってモデルが先に決まってしまうケースもあります。

税関特別監督管理モデル3種の共通点と相違点のマトリクス表。保税区モデルAのみ食品規格基準適合と商品登録の扱いが異なる

税関特別監督管理モデル3種の共通点と相違点。保税区モデルAのみ、中国の食品規格基準適合の要否と特定品目の商品登録の要否が異なる。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)

出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月)


ポジティブリスト──載っていない商品は、越境ECで売れない

中国は越境EC小売輸入商品にホワイトリスト制度を採っています。「越境EC小売輸入商品リスト」に収載された商品のみが、越境ECの形態で輸入できます。


2016年4月6日施行の初版は1,142商品。2018年・2019年・2022年の改正で段階的に拡大され、2022年版では1,476商品が収載されています。食品、衣類、化粧品、家電、生活雑貨、ゲーム機器、スポーツ器具など、中国の一般消費者が暮らしの中で使う物が対象です。

越境EC小売輸入商品リストの収載商品数の推移。2016年初版1,142商品から2022年版1,476商品へ拡大

ポジティブリスト収載商品数の推移。2018年版・2019年版の商品数は原典に記載がないため、推定値を置かず非公表として表示している。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


食品の収載例(HSコード付き)

報告書が抜粋している農林水産物・食品の一部を挙げます。

  • 21031000 醬油

  • 21032000 トマトケチャップその他のトマトソース

  • 19053100 スイートビスケット

  • 17041000 チューインガム/17049000 その他ココアを含まない砂糖菓子

  • 21050000 アイスクリームその他の氷菓

  • 20099010 混合果物ジュース/20099090 混合野菜ジュース、果物と野菜の混合ジュース

  • 20097100 ブリックス値が20以下のりんごジュース/20091900 その他のオレンジジュース

  • 22030000 ビール/22083000 ウイスキー/22086000 ウオッカ

  • 22029100 ノンアルコールビール/22029900 その他のノンアルコール飲料(果物ジュースと野菜ジュースを除く)

  • 29146200 コエンザイムQ10

ポジティブリスト収載の食品10品目とHSコード。醬油21031000、スイートビスケット19053100、ビール22030000、ウイスキー22083000など

ポジティブリスト収載の農林水産物・食品の抜粋。HSコードは原典の表記どおり記載している。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


コメは条件つきです。10063020(長粒種精白米)と10063080(中短粒種精白米)は収載されていますが、1人あたり年間20kgまでの購入制限があり、しかも直送モデルでは輸入できず、保税区モデルおよび保税区モデルAのみ利用可とされています。

精白米10063020と10063080の越境EC輸入条件。1人あたり年間20kgまで、直送モデル不可、保税区モデルのみ利用可

精白米の条件。ポジティブリストに収載されていても、購入量制限とモデル制限がかかる代表例。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


ノンアルコール飲料の2品目には、「野生動植物種輸出入商品目録」収載かつ同目録の種に該当しないことを証明する中華人民共和国絶滅危惧種輸出入管理弁公室の証明書を提供できない商品を除く、という条件が付いています。


リストの読み方で注意すべき4点

  • 収載商品であっても、中国の関連法令などの制限により越境ECを通じて輸入できない可能性がある

  • 木材、花きなどは通常一般貿易方式となり、リスト未収載のため越境EC輸入は認められない

  • 商品によって、直送モデルでは不可・保税区モデルまたは保税区モデルAなら可というものがある

  • 「品名・説明」欄は簡略化されているため、詳細は最新版の「中華人民共和国輸出入税則」に準拠して確認する


なお2022年版の公告は、2020年1月1日施行の旧版の更新版とされていますが、更新された部分以外は記載がないため、新旧あわせて確認する必要があると報告書は注記しています。自社品目がリストに載っているかを調べるときの落とし穴です。

出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月)


関税0%になる条件と、その計算式

越境ECの最大のメリットが税制です。ただし条件があり、その条件が価格設計を規定します。


優遇が効く範囲

消費者の取引金額が1回あたり5,000人民元を超えず、かつ年間取引金額が2.6万人民元を超えない場合、関税率は0%、増値税と消費税はそれぞれ法定額(一般貿易)の70%となります。計算式は「(増値税額+消費税額)×70%」です。


報告書の計算例を追ってみます。増値税率13%、消費税率15%のA商品を取引価格500人民元で購入した場合。

  • 消費税額=500÷(1−15%)×15%=約88.24人民元

  • 増値税額=(500+88.24)×13%=約76.47人民元

  • 課税額=(88.24+76.47)×70%=約115.28人民元

越境EC小売輸入の税額計算例。取引価格500人民元、増値税13%、消費税15%の場合、消費税額88.24元、増値税額76.47元、課税額115.28元

越境EC小売輸入における税額の計算例。数値は原典の計算例をそのまま用いており、原典も「参考用であり輸入港の税関の計算式と異なる場合がある」と注記している。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


閾値を超えると何が起きるか

  • 1回の取引金額が5,000人民元を超える場合(かつ購入商品は1点のみ):年間取引金額が2.6万人民元を超えていなくても、0%関税率も増値税・消費税の優遇もいずれも適用されない。計算式は「関税額+増値税額+消費税額」となり、その取引金額は年間累計にも加算される

  • 年間取引金額が2.6万人民元を超えた場合:通常の税率、すなわち一般貿易の税率に従って関税・増値税・消費税が課される

越境ECの税制優遇が適用される範囲を示す2軸図。横軸1回5,000人民元、縦軸年間26,000人民元。両方を満たす領域のみ関税0%

関税0%と増値税・消費税70%の優遇が適用される範囲。1回5,000人民元以下かつ年間26,000人民元以下の両方を満たす領域のみ。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


報告書の例では、関税率10%・増値税率13%・消費税率0のB商品を1万人民元で購入すると、課税額は「1万×10%+(1万+0)×13%+0」=2,300人民元になります。


ここから導かれる実務上の含意は明確です。越境ECは客単価5,000元・年間26,000元という天井の内側で成立するモデルであり、高単価商品や、リピートで年間累計が積み上がる商品は、途中で一般貿易と同じ税負担に切り替わります。価格設計と販売計画を、この閾値から逆算する必要があります。


購入できる人が限られている

見落とされやすい点です。購入者が中国人である場合、越境ECを通じた取引額は身分証明書番号に紐づく形で中国税関に管理されます。


一方、購入者が中国の身分証明書を持たない外国人の場合、一般的には越境ECを通じた買い物はできません。報告書が複数の税関に電話照会した結果によれば、中国の永住居留資格を保有する外国人であれば、永住居留資格証明書の番号をプラットフォームに提供することで購入でき、取引額はその番号に紐づいて管理されるとのことです。


納税義務者は消費者本人であり、越境ECプラットフォーム、物流会社、通関会社が源泉徴収義務者となります。

出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月)


中文ラベルが不要になる──ただし「情報開示」が交換条件

一般貿易では中文ラベルは義務です(一般貿易側の必須表示項目はこちら)。越境ECでは扱いが変わります。


486号通知第4条によれば、直送モデル・保税区モデルを利用した越境EC小売輸入商品については、中文表記の表示ラベルは必須ではなく、プラットフォーム上で必要な情報が公開されていればよいとされています。


ただし無条件ではありません。越境EC企業は、越境ECプラットフォームと協力して、商品の注文ページやその他目立つ場所で消費者にリスク告知を行い、消費者がそれを確認してはじめて発注できるようにしなければなりません。告知内容には、当該商品が海外から直接購入されたもので中文表記の表示ラベルが貼付されていない可能性があること、および消費者がウェブサイトから商品の中文表記の表示ラベル(電子版)を確認できることが、少なくとも含まれている必要があります。


つまり「紙のラベルを貼らない代わりに、電子版の中文ラベルを用意してサイトに載せる」という交換です。中文ラベルの作成作業そのものが消えるわけではありません。この規定は越境EC企業だけでなく、その中国国内代理人、越境ECプラットフォーマーのいずれも厳守する必要があります。

越境ECにおける中文ラベルの扱い。紙ラベルの貼付は必須でない代わりに、電子版の中文ラベル掲載とリスク告知、消費者同意後の発注の仕組みが必要

直送モデル・保税区モデルにおける中文ラベルの扱い。紙ラベルの貼付は必須ではないが、電子版の掲載とリスク告知の仕組みが交換条件となる。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


保税区モデルAについては、中文ラベルの要否を明文で定めた法令はありません。実務では486号通知に基づいて対応するのが一般的とされていますが、税関により見解が異なる可能性があるため、輸入予定港を管轄する税関への直接確認が必要です。

出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月)


中国の食品規格(GB)は満たさなくてよいのか

ここは報告書の記述がもっとも慎重になっている部分です。断定を避けて読む必要があります。


直送モデルと保税区モデル

486号通知第4条は、越境EC企業がプラットフォーマーと協力して、「当該商品は原産地の品質、安全、衛生、環境保護、表示などの規格基準または技術規範要求に適合するが、中国の規格基準とは差異がある可能性があること、関連リスクは購入者自ら負うことになること」を消費者にリスク告知する必要があると定めています。


この条文から、越境EC輸入商品は必ずしも中国の規格基準を満たさなければならないわけではないと読み取れる、というのが報告書の整理です。また、越境EC輸入商品が中国の食品規格基準の不適合を理由に行政処罰を受けた公開事例は、報告書作成時点では見当たらなかったとしています。


ただし税関総署および複数の地方税関への電話照会では、回答が割れました。同様の見解を示す税関がある一方で、「食品中のタンパク質、水分などの含有量などは原産地の規格基準に適合していればよい。ただし食品に含まれる汚染物質、微生物、残留農薬、動物用医薬品などの残留値は中国の規格基準を超えてはならない」との見解を示す税関もあったとのことです。


実務上は、後者の厳しい見解を前提に設計するのが安全です。成分規格は原産国基準でよいとしても、残留農薬・汚染物質・微生物については中国基準を確認しておく。この線引きが現実的です。

中国の食品規格基準への適合の要否を項目別に整理した表。汚染物質・微生物・残留農薬・動物用医薬品の残留値は中国基準を前提とするのが安全

中国の食品規格基準への適合の要否。条文からの読みと、税関照会での回答が分かれた項目を区別して表示している。不適合を理由とした行政処罰の公開事例は原典作成時点で確認されていない。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


保税区モデルAと、規格適合が明確に必要な品目

保税区モデルAについて、中国の食品規格基準への適合が求められるか否かを明確に定めた法令はありません。ただし194号公告第3条により、保税区モデルAを通じて輸入される商品は「越境EC小売輸入商品リスト(2019年版)」の文末脚注に従うとされ、それによれば乳児用調合乳粉、健康食品、特別な医療目的の調合食品などは、初回輸入に際して中国国内での登録または届出手続が必要です。


報告書が複数の税関に照会した結果、これら3カテゴリーについては中国の規格基準に適合する必要があるとの回答でした。その他の食品については、直送モデル・保税区モデルと同様に税関により見解が異なっていたとのことです。


なお194号公告第3条は本文で「2018年版」と記載していますが、2018年版は既に廃止されているため、2019年版の文末脚注を確認する必要があると報告書は注記しています。

出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月)


越境EC参与者──誰が責任を負うのか

越境ECは登場人物が多い制度です。486号通知第2条と194号公告第8条が5つの主体を定義しています。


  • 越境EC企業:中国国外で法人登記されている、中国国外から中国国内の消費者に向けて自身が所有権を持つ商品を小売販売する企業。日本の輸出企業はここに該当する

  • 越境ECプラットフォーマー:中国国内で工商登記されている、取引当事者間のサイバー空間上のサービス(ウェブページ、仮想店舗、取引ルールの設定、取引の仲介、情報発信など)を提供する事業者

  • 越境EC企業の中国国内代理人:越境EC企業から委託を受けて越境EC小売輸入業務を代行する国内の代理企業

  • 決済機関:中国国内で工商登記されている、決済サービスを提供する銀行、非銀行系金融機関、決済サービス運営会社(銀聯など)

  • 物流企業:中国国内で工商登記されている、越境EC小売輸出入商品の物流サービスを提供する企業


ここでいちばん重要なのは責任の所在です。報告書によれば、中国税関での登録の責務、誠実な通関申告の責務、中国の関係当局の監督を受ける責務、民事責任は、中国国内代理人が負います。つまり越境ECを始めるとき、どの国内代理人と組むかは物流条件やコストの問題ではなく、法的責任を誰が引き受けるかという問題です。ここを軽く扱うと、後から取り返しがつきません。

越境EC参与者5主体の関係図。越境EC企業、プラットフォーマー、中国国内代理人、決済機関、物流企業。税関登録・誠実申告・当局監督受容・民事責任は中国国内代理人が負う

越境EC参与者5主体と責任の所在。中国税関での登録の責務、誠実な通関申告の責務、当局の監督を受ける責務、民事責任は中国国内代理人が負う。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


手続としては、越境EC参与者は所在地を管轄する税関で届出を行う必要があります。越境EC企業は、中国国内代理人を通じて、その代理人の所在地を管轄する税関に届出をします。届出は中国国際貿易シングルウィンドウ標準版の「企業資格」サブシステム、または「インターネット+税関」統合オンラインサービスプラットフォームの「企業管理と監査」サブシステムから必要情報を入力して申請します。

出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月)


通関に必要な書類は、モデルによって違う

いずれも税関システムでオンライン提出が可能です。


  • 3モデル共通:受発注情報(プラットフォーマーまたは中国国内代理人が提出)、決済情報(決済機関)、物流情報(物流企業)、申告リスト(中国国内代理人・通関代理業者)

  • 保税区モデル・保税区モデルAで追加:税関申告書(货物报关单)、保税消込リスト(保税核注清单)

  • 保税区モデルAでのみ追加:乳児用調合乳粉、健康食品、特別な医療目的の調合食品の中国国内での登録・届出証明書

  • 日本発で一部食品に必要:放射性物質検査合格証明書、産地証明書など。これは3モデル共通で提出が必要


検査の流れは、まず有害生物などの侵入のおそれがある特定商品(動植物製品など)に検疫を実施し、要検疫品目は検疫所へ、不要な品目は越境EC監督管理作業場所または保税監督管理場所へ搬入されます。その後、申告リストの記載情報と受発注・決済・物流の電子データが照合され、問題がなければX線検査、不審な影があれば開披して中身を確認する流れです。


必要書類も地域により異なる可能性があるため、輸入予定港を管轄する税関への確認が必要です。

出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月)


海淘モデルは、制度がまるごと別物

海淘モデルは中国法令上に定義がなく、輸送の形態・性質から、実務上は税関法に定める「出入境物品」として管理されています。税関法第46条は、個人が郵送により出入境させる物品は自用で合理的な数量に限るとしています。


重要なのは、海淘モデルには中文ラベルの要否、中国の食品規格基準適合の要否、越境EC参与者に関する手続を定めた規定が存在しないことです。規制が緩いのではなく、そもそもBtoCの事業モデルとして設計されていない枠組みです。


総合税率は3段階

「入境物品関税・増値税・消費税徴収弁法」は、品名別に関税率・増値税率・消費税率をまとめて計算する総合税率を定めており、13%・20%・50%の3段階に分かれています。

  • 13%:書籍・新聞、雑誌、教育用ビデオ資料、コンピュータ、ビデオ記録装置、デジタルカメラなどの情報技術製品、食品、飲料(アルコール飲料を除く)、金銀、家具、玩具、ゲーム用品、祝祭用品その他の娯楽用品、医薬品(例外あり)

  • 20%:スポーツ用品(ゴルフボール・用具を除く)、釣具、繊維製品、自転車、13%と50%の適用外のその他の商品

  • 50%:タバコ製品、アルコール飲料、貴金属・宝石、ゴルフボール・用具、高級時計、高級化粧品、電池

海淘モデルの総合税率3段階。13%は食品・非アルコール飲料・情報技術製品など、20%はスポーツ用品・繊維製品など、50%はタバコ・アルコール飲料・高級化粧品など

海淘モデルの総合税率3段階。食品は13%区分だが、アルコール飲料は50%区分に置かれている。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


計算式は「取引価格×総合税率」。1,500人民元のデジタルカメラ1点なら1,500×13%=195人民元です。税額が50人民元以下の場合は免税。また1回あたりの総額が2,000人民元を超える場合は、返送手続を行うか、「物品」ではなく「貨物」として通関手続を行う必要があります。ただし郵便物の物品が1点のみで分割不可能な場合は、税関に個人使用目的が認められた場合に限り「物品」として通関できます。


食品が13%区分にある一方、アルコール飲料は50%区分である点は見逃せません。日本酒や焼酎を海淘で送ると税負担が跳ね上がります。中国向けアルコールの実務は中国向けアルコール輸出 完全ガイド2026中国のアルコール市場と販路 2026で扱っています。

出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月)


輸出できない品目──ここは越境ECでも変わらない

越境ECは、輸入規制を回避するルートではありません。ここを誤解すると通関で止まります。


原発事故に伴う規制

中国は、10都県(福島県、栃木県、群馬県、茨城県、千葉県、宮城県、長野県、埼玉県、新潟県、東京都)で生産された食品・飼料について、新潟県産精米を除き輸入を禁止しています。この規制は税関特別監督管理モデルでも海淘モデルでも同じです。加えて、原発事故に伴う輸入規制がされている品目、および二国間で一般貿易の検疫条件が定まっていない品目は、越境EC輸入が認められません。


検疫上のリストと、モデルによる可否の違い

「中華人民共和国携帯・郵送による入境が禁止される動植物およびその製品並びにその他の検疫対象物名録」に収載されている動植物製品その他検疫対象物は、直送モデルでは輸入できず、保税区モデルまたは保税区モデルAであれば輸入可というケースがあります。具体的には各種乳製品、卵、ハチミツ、ナッツ類、生鮮果実、乾燥果実、香辛料、コメ、植物、肉類、カカオなどが該当します。


ただし日本から輸入する場合、日中間の検疫条件が整っていないもの、原発事故に伴う輸入規制対象のものは、保税区モデルまたは保税区モデルAであっても許可されません。モデルを変えれば通るという話ではない、ということです。


水産物──原典の記述は現況と異なる

ここは注意が必要です。報告書は「中国では、日本を原産地とする水産物(食用水産動物を含む)の輸入を2023年8月24日以降、全面的に停止している」と書いています。2025年3月時点では正確な記述でしたが、その後、状況が二転三転しました。


  • 2025年6月29日:税関総署公告2025年140号により、10都県を除く日本の水産物の輸入を条件付きで再開。2023年の全面停止公告は廃止

  • 2025年11月5日:北海道産冷凍ホタテの対中輸出が約2年ぶりに再開

  • 2025年11月19日:日本産水産物の輸入が再び事実上停止。放射線検査に不足があるとの伝達が中国側からあったと農林水産省が説明

  • 2026年6月時点の報道では、新規輸出申請の凍結が続いており、実質的な禁輸状態が継続

越境EC輸入が認められない品目の3層構造と、日本産水産物をめぐる措置の推移。2023年8月全面停止から2026年6月時点の申請凍結継続まで

越境EC輸入が認められない品目の3層構造と、日本産水産物をめぐる措置の推移。水産物を原材料とする加工製品が規制対象となるかは、中国側が対象品目の詳細を未発表のため不明瞭。(出典:税関総署公告2025年140号、ジェトロ・ビジネス短信2025年6月30日、2025年11月〜2026年6月の各報道をもとに作成)


さらに報告書は、水産物を原材料とする加工製品が規制対象となるか否かについては対象品目の詳細が未発表のため不明瞭であり、貿易形式の違いによる輸入の可否も明らかになっていないと明記しています。水産物を含む加工食品を扱う場合は、輸入予定港を管轄する税関への直接確認が不可欠です。


出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月)。水産物の経緯は税関総署公告2025年140号、ジェトロ・ビジネス短信(2025年6月30日)、および2025年11月〜2026年6月の各報道。情報は本記事更新時点のものであり、必ず最新の一次情報で確認してください。


一般貿易と越境EC、どう使い分けるか

ここまでを踏まえて、判断の軸を整理します。


越境ECが向いている場合

  • 中国市場でまず需要を検証したい。少量・多品種でテストしたい

  • 中文ラベルの紙面設計やGB規格への適合確認が、まだ完了していない

  • GACC登録を待たずに動きたい(ただし前述のとおり、登録不要の根拠は運用ベース)

  • 客単価が5,000人民元の範囲内で、リピート前提でも年間26,000人民元に収まる


一般貿易が必要になる場合

  • BtoB取引、飲食店・小売店へのオフライン展開をしたい

  • 量が出る、または客単価が越境ECの閾値を超える

  • ポジティブリストに自社品目が収載されていない(木材、花きなど)

  • 中国国内の消費者以外に売る、あるいは中国の身分証明書を持たない層に売る

一般貿易と越境ECの判定フロー。ポジティブリスト収載、客単価5,000人民元、年間26,000人民元、BtoC、中国国内代理人の5段階で判定

一般貿易と越境ECの判定フロー。判定の順序は本文「何から始めればよいですか」と対応している。(出典:ジェトロ「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」2025年3月をもとに作成)


現実的な設計は併用です。越境ECで需要を検証し、数量が見えた段階で一般貿易へ移す。ただしその時点でGACC登録・中文ラベル・GB規格適合が一斉に必要になるため、越境ECで売れ始めてから慌てて準備するのではなく、越境ECを回しながら並行して一般貿易の準備を進めるのが正解です。移行の実務は中国への食品輸出 完全ガイド2026にまとめています。


越境EC自体の運用設計(プラットフォーム選定、価格・決済・物流、社内体制)は越境ECの始め方、商材カテゴリー別の輸出難易度は食品・調味料の輸出 完全ガイドマップ2026を参照してください。中国と対比して台湾の制度を見たい場合は台湾への食品輸出ガイドがあります。


よくある質問(FAQ)

Q1. 越境ECならGACC登録は本当に不要ですか?

運用としては不要とされています。農林水産省のQ&Aに中国当局からの情報として登録を要しないと記述があり、ジェトロが複数の税関に照会した結果も不要でした。ただし2026年6月1日施行の海関総署令第280号は、第30条で越境EC小売輸入食品の境外生産企業の管理要求を「関連規定に従って処理する」と定めるにとどまり、免除を明文化していません。改正の意見募集稿には免除の文言がありましたが最終条文には残りませんでした。実務では輸入予定港を管轄する税関に確認してから進めてください。


Q2. 中文ラベルを作らなくてよいのですか?

紙のラベルを商品に貼る必要はありませんが、電子版の中文ラベルをウェブサイトで消費者が確認できる状態にする必要があります。あわせて、海外から直接購入した商品であり中文ラベルがない可能性があることを注文ページで告知し、消費者が確認してはじめて発注できる仕組みが求められます。作成作業自体は消えません。


Q3. 中国の食品添加物や残留農薬の基準は無視できますか?

できません。条文からは必ずしも中国の規格基準を満たす必要はないと読み取れ、不適合を理由とした行政処罰の公開事例も報告書作成時点では確認されていません。しかし税関への照会では、汚染物質・微生物・残留農薬・動物用医薬品の残留値は中国の規格基準を超えてはならないとの回答もありました。この部分は中国基準で確認しておくのが安全です。乳児用調合乳粉、健康食品、特別な医療目的の調合食品は明確に中国基準への適合が必要です。


Q4. 保税区モデルと直送モデル、どちらを選ぶべきですか?

扱う商品によって選択の余地がない場合があります。乳製品、卵、ハチミツ、ナッツ、生鮮果実、乾燥果実、香辛料、コメなどは直送モデルでは輸入できず、保税区モデルまたは保税区モデルAのみ可となるケースがあります。逆に直送モデルは中国本土全域が適用地域である一方、保税区モデルは越境EC輸入の試行が認められた区域のみです。在庫リスクを国外に置けるのが直送、配送スピードで勝てるのが保税区、という違いもあります。


Q5. 水産物や水産物を使った加工食品は越境ECで売れますか?

水産物そのものは、2025年11月以降、実質的な禁輸状態が続いています。水産物を原材料とする加工製品が規制対象となるかは、中国側が対象品目の詳細を発表していないため不明瞭で、貿易形式による可否も明らかになっていません。だしや魚醬などを含む加工食品を扱う場合は、必ず輸入予定港を管轄する税関に直接確認してください。


Q6. 何から始めればよいですか?

順序は3つです。第一に、自社品目がポジティブリストに収載されているかを、2022年版と旧版の両方を突き合わせて確認する。第二に、想定客単価が1回5,000人民元・年間26,000人民元の閾値に収まるかを検証する。第三に、中国国内代理人の候補を選ぶ。法的責任を負うのは代理人なので、ここが実質的なパートナー選定です。この3つが済んでから、プラットフォームの話に進んでください。


まとめ

越境ECは、中国市場への「軽い入口」として機能します。中文ラベルの紙面設計を待たずに売り始められ、関税0%の優遇も受けられます。


ただし軽くなっている理由は、制度が優遇しているからではありません。越境EC小売輸入が「個人使用のための輸入」とみなされ、リスクを購入者が負う建て付けになっているからです。だからポジティブリストで品目が絞られ、金額に閾値があり、外国人は原則買えず、そして責任は中国国内代理人が負う構造になっています。


2026年6月施行の280号令が越境ECを適用範囲の外に置いたことは、この構造を再確認させる出来事でした。「不要」は「免除」ではありません。運用に依拠している部分は、税関への確認を手順に組み込む。それが越境ECで中国に売るときの基本姿勢です。


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中国向けの越境EC・一般貿易のルート選定、ポジティブリストの品目確認、中国国内代理人やプラットフォームの選定について、お気軽にご相談ください。台湾・東南アジアとの比較検討も含めて対応しています。


主要出典:日本貿易振興機構(ジェトロ)農林水産食品部市場開拓課/ジェトロ・上海事務所「中国向け農林水産物・食品の越境ECに関する制度調査」(2025年3月発行・北京市環球法律事務所への委託調査・禁無断転載)。原典は紹介ページおよびPDF全文から参照できます。あわせて海関総署令第280号(2025年10月14日公布・2026年6月1日施行)、税関総署公告2025年140号、農林水産省「中国向け輸出食品の製造等企業登録に係る規制への対応について」を参照。原典の図表は転載していません。制度は改正されるため、実務では必ず最新の一次情報および輸入予定港を管轄する税関への確認を行ってください。

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