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中国のアルコール市場と販路 2026|何が売れているか・有名銘柄・展示会・チャネル別攻略法

  • 堤浩記
  • 8月10日
  • 読了時間: 24分

2025年、中国市場で正反対の2つのことが起きました。

中国の日本食レストランは、63,500店に減りました。 前回調査から15,260店、19.4%の減少です。農林水産省は減少の要因として、中国における経済停滞の影響等を挙げています。

同じ2025年、日本酒の中国向け輸出は数量が25.1%伸びました。 金額133億円、数量6,660キロリットル。国・地域別の輸出金額では中国が1位です。

飲食店が2割消えた市場で、数量が25%増えた。この矛盾を説明できるかどうかが、中国市場で勝てるかどうかの分岐点です。

本記事では、中国のアルコール市場で何が売れているのか、どの銘柄が知られているのか、どの展示会に出るべきか、どのチャネルを使うべきかを、公的統計と現地情報をもとに整理します。

なお、輸出そのものの手続き——企業登録、産地証明書、関税、中文ラベルといった制度面は中国向けアルコール輸出 完全ガイド2026で解説しています。本記事は「制度はクリアできる。では、売れるのか」という問いに答えるものです。

【ご注意】 本記事には、公的統計に基づく事実(ファクト)と、Link Globalの解釈(仮説)の両方が含まれます。どちらであるかを本文中に明示していますので、区別してお読みください。 中国の市場環境および日中間の運用は頻繁に変化します。実際のご判断にあたっては最新の一次情報をご確認ください。

2025年の中国市場を示す対比図。日本食レストランは63,500店へ19.4%減少した一方、日本酒の中国向け輸出数量は6,660キロリットルへ25.1%増加したことを示す

2025年の「ねじれ」——2つの事実

まず数字を確定させます。

事実1:中国の日本食レストランは減った

農林水産省が2025年11月に公表した調査によれば、海外の日本食レストランは18万1千店で、2023年の前回調査から約6,000店減少しました。調査開始以来はじめての減少です。

国・地域別で最も減ったのは中国で、63,500店(▲15,260店、▲19.4%)。アジア全体では約11万2,400店で約9,600店の減少でした。つまり中国の減少幅はアジア全体の減少幅を上回っており、中国以外のアジア諸国では店舗数が増えていることになります(インドネシアは2,580店増、韓国は1,590店増、タイは590店増)。それでも中国は、なお世界最大の日本食レストラン集積地です。

事実2:日本酒の中国向け輸出は伸びた

日本酒造組合中央会のまとめによれば、2025年の日本酒輸出は金額458.8億円(前年比5.5%増)、数量3.35万キロリットル(同8.0%増)で、金額・数量とも2年連続の増加でした。輸出先は過去最多の81の国・地域に拡大しています。

国・地域別の金額トップは中国で、前年比13.9%増の133億円。2位は米国で同3.5%減の110億円。**数量ベースでは順位が逆転し、米国7,720キロリットル(▲3.5%)、中国6,660キロリットル(+25.1%)**でした。

この数字を、もう一段読む

3つ指摘しておきます。

第1に、主要2市場のうち中国だけが数量を伸ばしました。 米国は追加関税措置の影響もあり金額・数量ともに減少しています。日本酒の輸出全体が2年連続で増加した中で、中国が数量面の牽引役になったという構図です。

第2に、金額の伸び(13.9%)が数量の伸び(25.1%)を下回っています。 これは計算上、1リットルあたりの単価が下がったことを意味します。日本酒造組合中央会も、中国向けの単価を1ℓあたり1,998円とし、前年からわずかに低下したと発表しています。数量が増えながら単価が下がるのは、より安い価格帯の商品が数量を押し上げたことを示します。

第3に、政策目標との距離です。 農林水産省の輸出拡大実行戦略では、日本酒の2030年目標として中国200億円が設定されています。2025年実績が133億円ですので、残り5年で約1.5倍に伸ばす計算になります。

そして、これらを冒頭の飲食店減少と並べると、日本酒の需要が日本料理店の外に出始めている可能性が浮かびます。

【仮説】需要の主戦場が、日本料理店でのオンプレミス消費から、小売・EC・非日本食シーンへ移動している——これがLink Globalの解釈です。後述のチャネル分析で検証しますが、現時点では仮説です。飲食店1店あたりの取扱量が増えただけ、という説明も否定できません。

出典:農林水産省「海外における日本食レストラン数の調査結果(令和7年)」(2025年11月28日公表)、日本酒造組合中央会「2025年 日本酒輸出実績」(2026年2月6日公表)、農林水産省「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」(2025年5月改訂)

市場の全体像——日本酒とウイスキーは別のゲーム

2025年のアルコール飲料の輸出実績を整理します。

  • アルコール飲料全体:1,494.8億円(前年比+11.8%)

  • ウイスキー:489.8億円(+12.2%)

  • 日本酒:458.8億円(+5.6%)

2025年の日本のアルコール飲料輸出額1,494.8億円の内訳を示す図。ウイスキー489.8億円、日本酒458.8億円で、日本酒のうち中国向けが133億円で国・地域別1位

日本酒とウイスキーは、いまほぼ同規模です。ただし中身はまったく違うゲームです。

日本酒は中国が金額1位(133億円)で、飲食チャネルでの体験を通じて広がってきたカテゴリーです。単価は中国向けで1ℓあたり1,998円。参考として、香港・シンガポール・マカオでは2,000円/ℓを超える水準が続いています。日本酒全体の平均輸出単価は、2015年の771円/ℓから2025年の1,368円/ℓへ、約1.8倍に上昇しました。

ウイスキーは価格帯とブランドで勝負する市場で、贈答・コレクション需要の性格が強くなります。

なお、中国向け農林水産物・食品の輸出額全体は1,799億円(前年比7.0%増)で、国・地域別4位です。水産物の輸入規制という大きな制約を抱えたまま、なお1,800億円規模の市場であり、規制対象外のアルコール飲料には確かな実需があります。

出典:財務省貿易統計をもとに農林水産省作成「2025年の農林水産物・食品の輸出実績」(2026年2月3日公表)、日本酒造組合中央会

何が売れているのか——カテゴリー別の実像

日本酒——高価格帯から中価格帯へ

中国向けの単価1,998円/ℓは、前年からわずかに低下しました。日本酒造組合中央会は、その理由として中国で日本酒が市場に浸透し、多様な種類が取り扱われるようになったことを挙げています。

【仮説】単価が下がりながら数量が25%伸びたという組み合わせは、市場のフェーズが移行したことを示すと考えます。「限られた層がプレミアム銘柄を飲む段階」から「より広い層が中価格帯を日常的に飲む段階」への移行です。もしこの読みが正しければ、これから中国に入る蔵にとっては、最高級品だけでなく中価格帯の主力商品にも勝機があることになります。ただしこれは統計の動きからの推論であり、現地の実売データによる検証が必要です。

ウイスキー——成長中だが、まだニッチ

中国のウイスキー消費は急成長していますが、市場全体からすればなおニッチです。牽引しているのは若年層と高学歴・高収入層で、200〜300元の中価格帯が主流とされ、高級市場はスコットランドと日本の輸入品に依存しています。

一方で、中国国内の生産も動き始めています。ディアジオ(雲南省)やペルノ・リカール(峨眉山)といった国際大手が蒸溜所を建設し、瀘州や蒙泰などの地元ブランドも生産を開始しました。中国産はまだ品質・ブランド認知で輸入品に及ばないとされていますが、中価格帯は今後競合が激化する領域です。

【仮説】日本産ウイスキーが守るべきは、中国産が届いていない上位価格帯とストーリー性です。中価格帯で中国産と正面から価格競争をする戦い方は、関税の有利さ(暫定税率5%)があっても持続しないと考えます。

梅酒・リキュール・果実酒——最も追い風が吹いている

後述する「低度酒」トレンドと最も相性が良いカテゴリーです。アルコール度数が低く、甘みがあり、見栄えがする。中国の若年層・女性層の需要と正面から合致します。

ビール——関税0%でも最も厳しい

ビール(HS2203)の関税は0%ですが、価格競争は最も激しい領域です。中国は世界最大のビール消費国であり、地場ブランドの価格帯と正面から競合します。クラフトビールは上海・北京で市場が形成されていますが、輸送コストと鮮度管理の制約が重くのしかかります。

焼酎——認知の壁が最も高い

【仮説】焼酎の課題は関税や規制ではなく、「白酒と何が違うのか」を説明できていないことだと考えます。中国の消費者にとって「米や芋を原料にした蒸留酒」は白酒の説明とほぼ同じに聞こえます。度数、飲み方、香りの設計がどう違うのかを、白酒との対比で伝えられるかが分岐点になります。

出典:日本酒造組合中央会、財務省貿易統計・農林水産省、アウンコンサルティング「中国のウイスキー消費の現状と展望」(中国酒業協会等の資料に基づく整理)

中国の酒類市場そのものが変わっている——白酒の失速と「低度酒」

ここが、日本酒・梅酒の記事にほとんど書かれていない最も重要なパートです。 日本産の酒が中国で伸びるかどうかは、日本産の努力だけでなく、中国の酒類市場そのものの構造変化に左右されます。

白酒は「三重に」縮んでいる

中国酒業協会市場専業委員会とKPMGによる『2026中国白酒市場中期研究報告』は、厳しい数字を示しています。

  • 白酒の販売量・販売額いずれも「減少」と回答した企業が65%超

  • 86%超の企業が利益率の低下を報告し、利益率が増加した企業は5.9%にとどまる

  • **終端店舗数の縮小幅が最大(61.9%)**で、経銷商(経销商=ディストリビューター)の数がこれに次ぐ

  • 下半期の見通しについて、68.5%の企業が市場は継続して下行調整すると予想

同報告は、販売額の下落幅が販売量を上回っていることから、量が縮むだけでなく価格面でも下押し圧力がある可能性を指摘しています。また経銷商と終端店舗が同時に縮小していることは、流通側が在庫を減らし流通経路を短縮する動きに入っていることを示すとされています。

一方で、立ち上がっている需要がある

同じ報告の中に、逆方向の数字もあります。

  • 39.2%の企業が「低度・微醺(ほろ酔い)・松弛(リラックス)・健康」需要の伸びを認識

  • 38.1%が若年化・女性化という世代交代の傾向を捉えている

  • 25.6%の企業が「低度酒・微醺休閑酒」の展開に着手

報告は、若い消費者が酔いにくく飲みやすく見栄えの良い商品体験を好み、女性消費者は微醺のシーンと健康性を重視するため、低度酒が伝統的な白酒と新しい需要のあいだの断層を埋めていると分析しています。

また購買層の構成については、商務・企業管理層が81.5%と依然として基盤である一方、1985〜94年生まれの中堅層が65.0%、95年以降生まれの若手が19.9%、女性の新規消費層が15.0%とされています。

販売の形も変わっている

酒類の即時零售(即时零售=クイックコマース)市場規模は500億元を突破し、2025年の白酒の即時零售は53%成長、「1時間配達」が標準装備になりつつあると報告されています。

中国の白酒市場が販売量・利益率・店舗数の三方向で縮小する一方、低度酒や微醺需要、即時小売が伸びていることを示す構造変化の図

この構造変化をどう読むか

【仮説】ここがLink Globalの中心的な仮説です。

白酒が占めていた「儀礼的・高価格・高度数」のポジションが縮み、その空白に「低度数・飲みやすい・見栄えがする」カテゴリーが入り込む余地が生まれています。 アルコール度数15%前後で、甘みがあり、瓶のデザイン性が高い日本酒・梅酒・リキュールは、この空白の形にかなり近いところにあります。

つまり日本産の酒にとって、中国市場の逆風(経済停滞、飲食店の減少)と追い風(白酒の退潮、低度酒需要の立ち上がり)が同時に吹いているということです。「中国市場は悪い」という一括りの判断は、この構造を見落とします。

ただしこれは市場構造からの推論であり、実際に日本酒が白酒の空白を埋めているという直接的なデータは確認できていません。現地の経銷商・輸入商へのヒアリングによる検証が必要です。

日本産アルコール飲料が中国市場で狙うべきポジションを価格帯と飲用シーンの2軸で整理した仮説マトリクス図

出典:中国酒業協会市場専業委員会・KPMG『2026中国白酒市場中期研究報告』(2026年6月)、中国酒類流通協会

有名銘柄——中国で「知られている」のは誰か

獺祭の一人勝ちという現実

中国で最も認知されている日本酒は、山口県の獺祭です。2014年の国際政治の場で話題になったことをきっかけに中国でも大きく取り上げられ、爆発的に伸びました。

その集中度は、想像以上です。 四川省の成都のような内陸都市では、人気のある日本料理店でも「獺祭しか宣伝しない」と言い切られる状況が報告されています(2023年8月、ジェトロ成都事務所へのヒアリング)。

富裕層に届いている銘柄

沿岸部の富裕層のあいだでは、獺祭・十四代(山形)のほか、日本国内でも評価が高く入手困難な銘柄が人気を集めています。東日本大震災後の2014年から酒造りを再開し数々の賞を受賞している赤武(岩手)は、広州や上海といった南部・沿岸部を中心に広まっているとされます。

大手では白鶴・大関・月桂冠・松竹梅・日本盛・菊正宗といったブランドが定着しています。

中国の棚には、日本の人気銘柄の上位層が存在しない

ここが、この記事で最もお伝えしたい事実です。

10都県規制(宮城・福島・茨城・栃木・群馬・埼玉・千葉・東京・新潟・長野)により、以下の銘柄は中国に輸出できません。

  • 久保田(新潟)、八海山(新潟)、〆張鶴(新潟)

  • 飛露喜(福島)、写楽(福島)

  • 真澄(長野)

  • 浦霞(宮城)、日高見(宮城)

日本国内の売れ筋・人気ランキング上位に並ぶ銘柄が、制度によって中国市場から丸ごと不在になっています。獺祭の一人勝ちが起きている背景の一つは、ここにあります。

中国で認知されている日本酒の銘柄(獺祭、十四代、赤武、大手6ブランド)と、10都県規制により輸出できない銘柄(久保田、八海山、飛露喜、真澄、浦霞など)を対比した図

【仮説】これは規制の話として語られることが多いのですが、輸出可能な地域の蔵にとっては、競合が制度的に排除された市場だという読み方ができます。 西日本・九州・四国・北陸(富山・石川・福井)・東北の一部の蔵にとって、中国は「難しい市場」ではなく「日本国内では勝てない相手が最初からいない市場」です。

もちろん、規制が緩和されれば競争環境は一変します。その日が来る前に棚と経銷商を押さえられるかどうかが、時間の勝負になります。 この読みは市場構造からの推論であり、現地バイヤーへのヒアリングによる検証が必要です。

なお10都県規制は製造地に基づきますが、産地証明書の申請では原料の産地も記載対象となります。詳細は制度編をご参照ください。

現地生産という別解

関税40%(RCEP適用で34.3%)を回避する選択肢として、現地生産があります。

奈良県の中谷酒造は中国法人「天津中谷酒造」を設立し、天津の米と水で造る「朝香」ブランドが中国の日本料理店で人気を得ています。数はまだ少ないものの、日本酒の中国国内生産という選択肢が現に存在することは押さえておくべきです。

コンテストという回路

全日本コメ・コメ関連食品輸出促進協議会等が主催する「SAKE-China 日本清酒品評会」は中国最大規模の日本酒コンテストで、大手だけでなく日本各地の蔵元の酒も多数受賞しています。

【仮説】無名の蔵が中国市場で最初の信用を得る回路として、こうしたコンテストの受賞歴は費用対効果が高いと考えます。中国の消費者は「賞」「ランキング」への反応が強く、経銷商との商談でも説明材料になります。ただし受賞と売上の相関を示すデータは確認できていません。

出典:ジェトロ成都事務所ヒアリング(アジア乾杯企画による報道)、36Kr Japan、中国ビジネスCOMPASS、輸入停止対象はジェトロ「アルコール飲料の輸入規制、輸入手続き(中国)」

チャネル別攻略——「ねじれ」を解く

冒頭の問いに戻ります。飲食店が2割減った市場で、なぜ数量が25%伸びたのか。チャネルごとに分解します。

中国のアルコール飲料販売チャネル7分類(日本料理店、高級スーパー、経銷商、EC、ライブコマース、即時小売、越境EC)の役割・想定ロット・向く商品を整理した図

① 日本料理店(オンプレミス)

63,500店に縮小しましたが、なお世界最大の集積です。米国26,360店、韓国19,800店と比べても圧倒的な規模が残っています。

【仮説】店数が減った一方で、生き残った店の1店あたり取扱量が増えている可能性があります。撤退したのは体力の弱い小規模店で、日本酒の品揃えに投資できる店が相対的に濃く残った——という読みです。これが正しければ、「店数」ではなく「有力店の攻略数」で目標を立てるべきことになります。検証には現地店舗へのヒアリングが必要です。

② 高級スーパー・KA

中国の消費者が日本食品を購入する主な小売チャネルには、輸入食材を多く扱う地場系の高級スーパーのほか、**イオン(永旺)、イトーヨーカドー(伊藤洋華堂)**があり、この2社の知名度は高いとされています。

③ 酒類専門店・経銷商

【仮説】白酒の経銷商・終端店舗が縮小しているいまは、彼らが新しいカテゴリーを探しているタイミングです。従来、日本酒の経銷商は日本食材の輸入商が兼ねるケースが多かったのですが、白酒系の流通が扱う商品を探している局面は、参入の窓が開いていると考えます。

④ EC(天猫国際・京東)

ブランドが確立してから使うチャネルです。価格の基準がここで形成されるため、後述の価格統制と直結します。

⑤ ライブコマース・小紅書

認知形成の主戦場です。ただし広告法第23条の制約が最も厳しく効く場所でもあります(後述)。

⑥ 即時零售(クイックコマース)

前述の500億元市場。日常的な少量購入の受け皿で、低度酒・RTDと相性が良い領域です。

⑦ 越境EC(保税区モデル)

一般貿易とは別の制度で運用されており、輸出可能な品目、中文ラベル表示の要否、製造企業登録の要否、税制がそれぞれ異なります。小ロットでの市場テストに適した選択肢です。

「ねじれ」への回答

冒頭の問いに答えます。飲食店が2割減った市場で数量が25%伸びた理由について、統計から確実に言えることは1つだけです。単価が下がりながら数量が増えた——つまり、より安い価格帯の商品が数量を押し上げました。

【仮説】ここから先はLink Globalの解釈です。中価格帯の商品が数量を押し上げたのであれば、その買い手は「日本料理店で特別な一杯を頼む客」ではなく、**「小売やECで買って自宅で飲む層」**である可能性が高いと考えます。飲食店の減少と数量増が同時に起きるのは、この読みなら矛盾しません。

もしこの仮説が正しければ、実務上の意味は3つあります。

  1. チャネル戦略の重心が変わる。 日本料理店の攻略だけでは、伸びている需要を取り逃がす

  2. 主力商品の設計が変わる。 最高級品1本ではなく、中価格帯の主力商品を持っている蔵が有利になる

  3. 中国語での商品情報が重要になる。 店員が説明してくれる飲食店と違い、小売・ECでは商品自体が説明しなければならない

ただし、これは仮説です。「撤退したのは体力の弱い小規模店で、生き残った有力店の1店あたり取扱量が増えただけ」という説明も、同じ統計から成り立ちます。どちらが実態に近いかは、現地の経銷商・小売・飲食店へのヒアリングでしか確かめられません。当社としても、この検証を優先課題と考えています。

価格が2倍に開く問題

真面目に輸出している蔵のブランドを最も速く壊すのは、競合ではなく価格のばらつきです。

2023年5月時点の調査では、獺祭の公式海外旗艦店において中国国内の保税倉庫からの発送で600元(約12,000円)という価格例が確認されており、中国での販売価格は店によって2倍ほどの開きがあるとされています。中国には多数のECプラットフォームがあり、個人が運営するネットショップ、個人による転売、代理購入サービスも広く利用されているため、価格のばらつきはさらに大きいと推測されています。

【仮説】価格統制は「あとで整える」ことができません。EC上で最初についた価格が基準になり、正規ルートの価格がそれより高いと、正規品が売れなくなります。したがって輸出開始時点で、以下を先に決めておくべきだと考えます。

  • 中国国内の希望小売価格帯と、それを維持する契約上の取り決め

  • 並行輸入・代購を発見した場合の対応方針(商標権に基づく申立ての可否を含む)

  • ECでの直販を行うか、経銷商に委ねるかの線引き

なお、ECプラットフォームでは商標登録証の提示を求められるのが一般的です。商標を先に取得していなければ、そもそも正規の価格統制の手段を持てません。 商標は先願主義であり、制度編で述べたとおり「先に」出願する必要があります。

出典:中国ビジネスCOMPASS(天猫国際の価格調査、2023年5月時点)、ジェトロ「アルコール飲料の輸入規制、輸入手続き(中国)」(商標)

展示会——出るべき順番

中国の食品・酒類展示会は数が多く、「どれに出るか」で迷いがちです。しかし実務上より重要なのは**「どの順で出るか」**です。目的が違う展示会に順番を間違えて出ると、費用が成果に結びつきません。

2026年の主要展示会

  • 全国糖酒会(春・第114回)/3月26〜28日(開催済み)/成都(西博城・世紀城)/目的:経銷商発掘

  • SIAL SHANGHAI/5月18〜20日(開催済み)/上海/目的:小売バイヤー

  • 全国糖酒会(秋・第115回)10月15〜17日/南京国際博覧中心/目的:経銷商発掘

  • 中国国際輸入博覧会(第9回CIIE)11月5〜10日/上海/目的:ブランド認知

  • ProWine Shanghai11月10〜12日/上海新国際博覧中心/目的:酒類専門バイヤー

  • FHC Shanghai/11月(会期要確認)/上海/目的:小売バイヤー

2026年の中国の主要な食品・酒類展示会(成都と南京の全国糖酒会、SIAL SHANGHAI、CIIE、ProWine Shanghai、FHC Shanghai)の会期と目的を年間タイムラインで示した図

それぞれの性格

全国糖酒会は中国糖業酒類集団有限公司が主催し、年2回(春・秋)開催されます。年間の展示面積は20万平方メートルを超え、参展企業は1万社超、来場者は40万人次を超える、中国の食品酒類業界で最も歴史が長く規模の大きい展示会の一つです。2026年3月の第114回(成都)は総展示面積32.5万平方メートル、50を超える国・地域から2,000超の国際ブランド、6,600社超の出展規模でした。経銷商を探すなら、まずここです。

SIAL SHANGHAIは中国最大級の総合食品見本市です。2026年5月の開催では、20万平方メートルの会場に75カ国・地域から5,000以上の企業・団体が出展し、132カ国・地域から18万人以上が来場しました。ジェトロは国際総合食品ホールに10回目となるジャパンパビリオンを設置し、計39社(うち8社が初出展)が出展しています。日本パビリオンがあるため、初出展のハードルが最も低い展示会です。

ProWine Shanghaiは中国大陸のワイン・スピリッツ業界の主要な専門商談展です。酒類だけを目的に来場するバイヤーが集まる点が、総合食品展との決定的な違いです。

**CIIE(中国国際輸入博覧会)**は2018年から毎年上海で開催されている国家級の博覧会で、世界で初めて輸入をテーマとしたものです。商談の場としてよりも、ブランド認知と対外的なシグナルとしての意味が大きい場です。

FHC Shanghaiは輸入品と高品質製品に特化した展示会です。2026年は11月10〜12日、上海新国際博覧中心で開催され、来場者の43%が上海以外から訪れます。地方都市の流通を狙う場合に意味があります。

なお実務上重要な点として、ProWine ShanghaiとFHC Shanghaiは同じ11月10〜12日・上海新国際博覧中心で併催されます。酒類専門バイヤーと小売バイヤーを1回の渡航で両方押さえられるため、11月上旬から中旬は中国出張の効率が最も高い時期です。CIIE(11月5〜10日)まで含めると、11月前半に3つの展示会が集中します。

【仮説】推奨する順番

中国での展示会出展の推奨順序を示した仮説フロー図。市場性確認から経銷商発掘、専門バイヤー開拓、ブランド確立までの4段階

Link Globalとしては、次の順序を推奨します。これは当社の仮説であり、実際の出展成果の振り返りを通じて検証・改訂すべきものです。

  1. 市場性の確認:越境ECや小ロットのテスト販売でリピートを確認する

  2. 経銷商を見つける:全国糖酒会(秋・南京/春・成都)。ここで複数の候補を確保し、安易に独占契約を結ばない

  3. 専門バイヤーに広げる:ProWine Shanghai。酒類専門店・レストランの棚を取る

  4. ブランドを固める:CIIE、SIAL、FHC。定番化と価格統制の段階

本記事の公開時点(2026年8月)から動くなら、次の機会は10月の南京・秋糖です。 準備期間から逆算すると、いま着手して間に合うかどうかの境目にあります。なお会期・会場は主催者発表に基づくものですので、出展検討時には必ず公式サイトで最新情報をご確認ください。

出典:各展示会主催者発表、ジェトロ ビジネス短信「SIAL SHANGHAI 2026が開催、ジェトロはジャパンパビリオン設置(中国)」(2026年5月)、中国国際輸入博覧会公式資料

売る段階の規制——広告法第23条

制度をクリアし、棚に並び、経銷商が決まっても、売り方には別の規制があります。 日本のマーケティング素材がそのまま使えないことを、最初に知っておく必要があります。

広告法(2021年改正)第23条は、アルコール飲料の広告について次を禁じています。

  1. 飲酒を誘導し、そそのかし、または無節操な飲酒を宣伝してはならない

  2. 飲酒の動作を出現させてはならない

  3. 車、船、飛行機などを運転する活動を表してはならない

  4. 飲酒が緊張と焦りを解消し、体力を増加させるなどの効果があることを明示または暗示してはならない

日本の販促素材の定番が、ほぼ全滅します。 乾杯シーン、グラスに口をつけるカット、「一日の疲れが吹き飛ぶ一杯」といったコピー——いずれも第23条に触れる可能性があります。ライブコマースやショート動画を使う場合、この制約は特に厳しく効きます。

また未成年者保護法(2024年改正)第59条により、未成年者(18歳未満)への酒類販売は禁止され、店内の目立つ場所に「未成年者には酒類を提供していません」等の標識を貼る必要があります。

【仮説】この制約は、実は日本酒に有利に働く可能性があります。飲む行為を見せられないのであれば、訴求できるのは造り・産地・原料・歴史・器です。ストーリーを持つ蔵にとっては、むしろ戦いやすい土俵だと考えます。

出典:広告法(2021年改正)第23条、未成年者保護法(2024年改正)第59条、ジェトロ「アルコール飲料の輸入規制、輸入手続き(中国)」

リスクと分散

2025年11月以降、日本から中国に輸出した日本酒などの酒類や食品の通関手続きに、通常より時間がかかる事案が発生しました。中国到着後、通関手続きに必要な書類が以前より増えたためと報じられています。2026年1月には鈴木農林水産大臣が会見で「農林水産物や食品の海外輸出が円滑に行われることが何より重要だ」と述べ、状況を注視する姿勢を示しました。

市場としての中国は魅力的です。しかし政治的な要因で流れが突然滞りうる市場でもあります。

現実的な向き合い方は3つだと考えています。

  1. 中国を単独の出口にしない。 台湾・香港・シンガポール・東南アジアと並行して販路を設計する

  2. 登録という資産は先に作る。 酒類の企業登録は自己登録ルートで比較的短期間に完了し、原則5年ごとの自動更新です。市場が動いたときの初動速度が変わります

  3. チャネルを分散させる。 飲食店だけ、ECだけ、という設計は、政策変更と景気変動の両方に弱くなります

出典:日本経済新聞(2026年1月8日)、NHK(2026年1月9日)

よくある質問(FAQ)

Q. 中国市場は、いま参入すべきタイミングですか?

A. 判断材料としての事実は3つです。日本食レストランは19.4%減少しました。日本酒の中国向け輸出数量は25.1%増加しました。白酒市場は縮小し、低度酒需要が立ち上がっています。この3つをどう評価するかは各社の状況によります。Link Globalの仮説としては、白酒の退潮によって空いたポジションを取りに行くタイミングだと考えますが、これは検証すべき仮説です。

Q. 獺祭以外は売れないのですか?

A. 十四代、赤武などの銘柄が沿岸部の富裕層に広がっているという報告があります。また現地ヒアリングでは、日本酒好きの中国人から「中国であまり知られていない日本酒を飲んでみたい」という需要も確認されています。獺祭の認知が突出しているのは事実ですが、それ以外に余地がないという意味ではありません。

Q. どの展示会から出るべきですか?

A. 経銷商を探すなら全国糖酒会、初出展でハードルを下げたいならジャパンパビリオンのあるSIAL SHANGHAI、酒類専門バイヤーに絞るならProWine Shanghaiです。ただし出展の前に、小ロットでリピートが確認できているかを見てください。市場性が未確認のまま展示会に出るのが、最も費用が無駄になるパターンです。

Q. 新潟の蔵ですが、中国に出せませんか?

A. 10都県産の食品は輸入停止中で、新潟県産は精米のみが例外的に認められています。清酒は現時点では輸出できません。最新の規制状況は農林水産省「アジアにおける規制措置の変遷」でご確認ください。

Q. 越境ECだけで始められますか?

A. 小ロットの市場テストとしては有効な選択肢です。ただし一般貿易とは別の制度で運用されており、品目・ラベル・登録・税制の要件が異なります。「簡単な入口」ではなく「別の制度」と捉えてください。

Q. 価格はどう決めればよいですか?

A. 中国国内の店頭価格には店によって2倍ほどの開きがあると報告されています。輸出開始の時点で希望小売価格帯と契約上の取り決めを決めておくこと、そして商標を先に取得しておくことが前提です。あとから整えるのは困難です。

Q. 日本のSNS素材をそのまま使えますか?

A. 使えない可能性が高いです。広告法第23条が飲酒の動作の描写を禁じているため、乾杯シーンや飲用カットは作り直しが必要になります。

まとめ

  • 2025年、中国の日本食レストランは63,500店へ19.4%減少した。一方で日本酒の中国向け輸出は数量25.1%増、金額133億円で国・地域別1位。この「ねじれ」の読み方が分岐点

  • アルコール飲料の輸出は全体1,494.8億円。ウイスキー489.8億円と日本酒458.8億円がほぼ同規模だが、戦い方は別

  • 主要2市場のうち中国だけが数量を伸ばした(米国は金額・数量とも減少)。金額の伸び13.9%が数量の伸び25.1%を下回り、単価低下が裏付けられる

  • 中国向けの日本酒単価は1,998円/ℓで前年からわずかに低下。より安い価格帯が数量を押し上げた=買い手は小売・ECの自宅消費層である可能性が高い【仮説】

  • 2030年の政策目標は中国200億円。2025年実績133億円から残り5年で約1.5倍

  • 白酒は販売量・利益率・店舗数の三方向で縮小(利益率低下86%超、終端店舗の縮小61.9%)。一方で39.2%の企業が低度・微醺・健康需要の伸びを認識し、即時零售は500億元市場に

  • 白酒が占めていたポジションの空白に、低度数で飲みやすい日本酒・梅酒・リキュールが入る余地がある【仮説】

  • 中国での認知は獺祭に極端に集中。十四代・赤武が沿岸部富裕層に広がる。大手は白鶴・大関・月桂冠等が定着

  • 10都県規制により久保田・八海山・飛露喜・真澄・浦霞などが不在。輸出可能な地域の蔵にとっては競合が制度的に排除された市場【仮説】

  • チャネルは7分類。日本料理店だけでなく、高級スーパー、経銷商、EC、ライブコマース、即時零售、越境ECを役割で使い分ける

  • 店頭価格は店によって2倍の開き。価格統制と商標取得は「先に」

  • 展示会は目的が違う。経銷商=糖酒会、初出展=SIAL、酒類専門=ProWine、認知=CIIE。2026年8月時点で次の機会は10月の南京・秋糖

  • 広告法第23条が飲酒動作の描写を禁じる。訴求できるのは造り・産地・原料・歴史・器

関連記事・ご相談について

Link Globalでは、市場調査から現地パートナー開拓、展示会出展、規制対応の整理まで、海外販路開拓をワンストップで支援しています。中国での酒類の販路設計、経銷商の選定、展示会出展のご相談は、海外販路開拓支援サービスのページ、またはお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。

※本記事は2026年8月時点で公開されている公的情報および現地報道をもとに作成しています。【仮説】と記載した箇所はLink Globalの解釈であり、検証を経ていないものです。中国の市場環境および日中間の運用は変更される可能性があるため、実際のご判断にあたっては必ず最新の一次情報をご確認ください。

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