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台湾の家具の選び方と内装事情|系統櫃・装潢文化から日本の家具事業者への示唆まで

  • 堤浩記
  • 7月31日
  • 読了時間: 22分

更新日:8月9日


台湾の家具の選び方と内装事情|系統櫃・装潢文化から日本の家具事業者への示唆まで

台湾に家具やインテリア商品を売りたい。あるいは台湾の住まい関連市場に参入したい。そう考えたとき、最初に理解しておくべきことがあります。それは、台湾人の家具の買い方は、日本人と「順番」が違うということです。


日本では、引っ越しが決まるとまず家具店に行きます。台湾では、まず内装工事(装潢/ジュアンホアン)の計画を立て、収納の大半を造り付けのシステム家具(系統櫃/シートングイ)で作り込み、最後に残った空間へソファやベッドといった「動かせる家具」を置きます。この順番を知らないまま日本流の提案で商談に臨むと、話がかみ合いません。


日本と台湾で違う家具を買う順番の比較|台湾の家具の選び方と内装事情

当ページでは、装潢文化の背景、家の買い方別の家具調達フロー、買い主仕様変更(客變/クービエン)の実務、系統櫃・木作・既製家具の三択構造、内装の依頼ルートと費用相場、家具チャネルの地図、老屋リノベーションと法人市場、そして日本の家具・インテリア事業者への示唆——という流れで、台湾の家具・内装の実務を一気通貫で解説します。


前提となる住宅データ(広さ・間取り・持ち家率・ローン)は、姉妹記事の 台湾の住宅事情2026 で整理しています。金額は台湾ドル(元)表記で、1元=約5円で概算しています。


なお、日本の工芸品・インテリアを海外で売る場合の進め方は、伝統工芸品の海外展開ガイドマップ2026に商材別・目的別でまとめています。

なぜ台湾は「装潢文化」なのか

台湾の住宅は、造り付け収納が少なく、床はタイル、壁はコンクリートに塗装というつくりが標準です。新築でも、建商(デベロッパー)が付けるのはキッチン・浴室・建具などの標準仕様(標配/ビャオペイ)まで。そこから先の「住める空間」は、住み手が内装工事で作るのが前提になっています。


だから台湾では、入居前に装潢するのが当たり前です。装潢予算の目安は物件価格の10〜15%とされ、1,500万元の新築なら150万〜225万元(約750万〜1,100万円)を内装に投じる計算になります。「新築はそのまま住める」という日本の感覚とは、スタートラインが違うのです。


この文化の背景には気候と住宅性能への意識もあります。高温多湿ゆえの防潮(湿気対策)、板材のホルムアルデヒド(甲醛)等級への関心、地震国ならではの施工品質へのこだわり。内装は「買うもの」ではなく「専門家に発注する工事」として定着してきました。


家の買い方別に見る「家具がいつ・どう決まるか」

台湾の住宅購入には完成前販売(預售屋/ユーショウウー)・完成済み新築(新成屋)・中古住宅(中古屋)・スケルトン渡し(毛胚屋/マオピーウー)の4形態があります。どの形で買うかによって、家具の意思決定のタイミングは大きく変わります。


台湾の家の買い方別・家具の意思決定タイムライン|台湾の家具の選び方と内装事情

預售屋——家具の議論は入居の1〜3年前に始まる

預售屋では、建設中の「客變」期間に間仕切り・配線・設備・建材を買い主仕様に変更できます。多くの買い主はこの段階で室内設計師に相談し、収納計画や家具のレイアウトまで含めた全体プランを固めます。標配のキッチンなどを外して差額の返金を受け(選退)、入居時に好みの設備へ入れ替えるのも定番です。


つまり預售屋の買い主にとって、家具の実質的な意思決定は入居のはるか前、設計師のプランニング段階で行われます。ここに入り込めるかどうかが、高単価の家具・設備を売るうえでの分かれ目です。


新成屋——「軽めの装潢+家具」で最速入居

完成済み新築は標配設備付きのため、装潢は収納(系統櫃)とスタイリングが中心で、費用目安は坪6〜8万元。系統櫃を入れ、ソファ・ベッド・ダイニング・家電を買い足せば入居できます。既製家具チェーンにとっての主戦場はこの層です。


中古屋・老屋——予算は「見えない工事」に消える

中古屋の装潢は坪8〜12万元以上、老屋の全面リノベーションは坪16〜22万元が目安です。配管・防水・電気といった基礎工事に予算の多くが吸われるため、仕上げは「系統櫃+手頃な既製家具」で抑える節約パターンが定番になっています。一方で、フルリノベは家具を総入れ替えする数少ない機会でもあり、高単価家具にとって最大の商機のひとつです。


賃貸——造作できない300万人市場

台湾の賃貸人口は300万人を超えます。内装工事ができないため、選択肢は既製家具・置き家具・原状回復できる収納だけ。また単身向けのワンルーム(套房/タオファン)は家具・家電付きで貸されることが多く、その場合の家具の買い手は入居者ではなく大家(不動産オーナー)です。「誰が財布を握っているか」が持ち家市場とはまったく違います。


客變の実務——何が変えられて、何が変えられないのか

家具・設備・建材を台湾で売るなら、客變の中身は解像度高く知っておく価値があります。変更の中心になるのは、次の4つの領域です。

  • 間仕切り(隔間):位置の変更・撤去。防火区画の範囲内なら、独立キッチンを開放式へ変える変更も可能

  • 水道・電気:コンセントの位置と数、スイッチ、弱電の配置

  • 照明:配線・スイッチ回路の計画

  • 空調:配管ルートの確保


一方で「動かせないもの」の理由も明確です。建物の構造(梁・柱)と外観・バルコニーは建築確認図に関わるため不可。キッチンの位置は棟全体のガス管配置に、トイレの位置は排水管が梁をまたげないという配管上の制約に縛られます。間取りの好みで避けたい配置がある場合は、客變では動かせないため、物件選びの段階で避けるのが定石です。


標準装備(標配)の扱いは建商ごとに異なります。キッチンなら「施工するか・しないか」の二択しかない建商もあれば、設備一式を施工せず引き渡しのみ(点交/ディエンジャオ)で受け取れる建商、特定の機器だけ入れ替えられる建商まで様々。浴室は洗面台・便器・暖房乾燥機・鏡・金物などを個別に「点交・施工・退件」から選べるのが一般的です。


手続き面では、建商から「客變通知書」が届き、記載された締切までに変更内容を確定させます。設計師と内容を詰める時間として、締切の1〜2か月前には相談を始めるのが推奨されます。なお預售屋の契約には5日間の審閲期があり、物件総価の5%を「交屋保留款」として引き渡し検収後の支払いに残せる消費者保護も定められています。


預售屋の客變で変えられるもの・変えられないもの一覧|台湾の家具の選び方と内装事情

事業者の視点で重要なのは、客變が「入居後の解体工事を省き、装潢費を圧縮する仕組み」だということです。標配を退して返金を受け、その予算で好みの設備や建材を入れる——この置き換え需要こそ、日本の設備・建材・造作系プロダクトが最初に狙うべき窓口です。


系統櫃・木作・現成家具——台湾の家具は三択構造

台湾で「家具」と言うとき、実際には3つの異なる市場が混ざっています。それぞれ買う場所も、意思決定者も、競合も違います。


台湾の家具三択構造(系統櫃・木作・現成家具)の比較|台湾の家具の選び方と内装事情

システム家具(系統櫃)——現代台湾の主流

工場で規格板材をカット・加工し、現場で組み立てる半オーダーの造り付け家具です。クローゼット(衣櫃)、玄関収納、テレビボード、書棚、デスクといった収納系は、この方式で作るのが現代台湾の主流です。職人が現場で作る木作に比べて、工期が短い・粉塵が少ない・品質が安定している・価格が読みやすいことが支持される理由です。


選定基準も成熟しています。板材はホルムアルデヒド放散等級(F1など)やグリーン建材ラベルの有無、防潮性能。金物はオーストリアのBlum(ブルム)など輸入ブランドの丁番・スライドレールが訴求点になります。三商美福や特力屋系列のような専業チェーンのほか、室内設計師経由、工場直営など、調達ルートも多様です。発注の流れも定型化しており、大手チェーンの標準は、現場採寸→平面図・3Dパースの提示→見積り→契約(着手金3割・完工検収後に残金7割)→部材の生産・入荷(7〜10日)→施工、という段取り。ショールームで完成形を確かめてから短納期で入れられる手軽さが、木作からシェアを奪ってきた理由のひとつです。


木作(造作家具)——ハイエンドの完全オーダー

木工職人が現場で採寸・製作する完全オーダーです。質感と自由度は最高ですが、価格と工期も最大。高級住宅や店舗・商業空間が中心で、一般住宅では「ここぞの一面だけ木作、他は系統櫃」という使い分けが多くなっています。


現成家具(既製家具)——「動かせる家具」の市場

ソファ、ベッド、マットレス、ダイニングセット、チェアなど、置くだけで使える家具の領域です。IKEA・宜得利(ニトリ)・詩肯柚木といったチェーンや家具店、ECの主戦場はここ。低予算・賃貸・すぐ欲しいというニーズにも応えます。


ここで重要な示唆がひとつあります。日本の家具店が扱う商品のうち、収納家具のかなりの部分は、台湾では「装潢の一部」として設計師・系統櫃業者経由で供給されます。つまり日本の家具事業者が台湾の消費者市場で戦う領域は、実質的に「動かせる家具」と「素材や作りで選ばれる一点物」に絞られる——これが最初に押さえるべき市場構造です。


内装は誰に頼むのか——設計師・統包・自行發包

装潢の発注ルートは大きく3つあります。

  • 室内設計師(設計事務所):プランニング・3Dパース・施工監理まで一括で担う。設計費の相場は坪4,000〜1万5,000元。品質と完成度は最も高いが費用も最大。預售屋の客變やフルリノベの定番

  • 工務店への一括請負(統包/トンバオ):設計料を抑えられる分、デザインの詰めや現場監理は施主側の負担が大きい

  • 分離発注(自行發包/ツーシンファーバオ):水道電気・木作・塗装など工種ごとに自分で職人を手配する最安ルート。知識と手間が要る


台湾の内装依頼3ルート(設計師・統包・自行發包)の比較|台湾の家具の選び方と内装事情

費用相場は、新成屋で坪6〜8万元、中古屋で坪8〜12万元以上、老屋の全面リノベで坪16〜22万元。資材費・人件費の上昇により、同じ内容でも総額は数年前より2〜3割上がったと言われ、「坪5万元で装潢できる」時代は終わりつつあります。


家具ビジネスの視点で重要なのは、設計師が事実上の「家具の指定権」を持っているケースが多いことです。台湾の消費者は、設計師が提案するプランとリストの中から家具・建材を選ぶことが多く、エンドユーザー向けの広告よりも、設計師・系統櫃業者・輸入商へのB2B営業のほうが効率的な場面が少なくありません。弊社が家具・インテリア企業の台湾展開を支援する際も、この「意思決定チェーンのどこに入るか」から設計します。


装潢予算はどう配分されるのか——「見えない工事」と家具の取り分

装潢の総予算は、おおまかに次のように配分されるのが一般的です。

  • 設計・監理費:全体の10〜15%

  • 基礎工事(解体・給排水・電気・防水・左官など):30〜40%。築古の老屋では40〜50%がここに消える

  • 内装工事(木作・系統櫃・天井・塗装など):30〜40%

  • 家具・家電・ソフト装飾:15〜20%

  • 予備費:1割前後を確保するのが定石


つまり「家具・家電」に回るのは、装潢総額の2割弱に過ぎません。仮に装潢に200万元をかける世帯なら、家具・家電の枠はおよそ30万〜40万元(約150万〜200万円)という計算です。日本の家具事業者が台湾の見積り感覚をつかむうえで、この「取り分」の相場観は重要です。もうひとつの落とし穴が見積りの「坪数基準」です。権状坪数ベースか、室内の実施工坪数ベースかで坪単価の見え方が大きく変わるため、相場と比較する際は基準を必ず揃える必要があります(台湾の広告坪数は共用部込みで、室内の実坪はその7割前後です)。


台湾の装潢予算の配分と家具・家電の取り分|台湾の家具の選び方と内装事情

予算を左右するもうひとつの変数が、預售屋の「客變」です。買い主は客變で標配設備を退して返金を受けたり、間仕切りを先に変更して入居後の解体工事を省いたりすることで、装潢費を大きく圧縮できます。設計師が客變の段階から関与するのはこのためで、台湾では「客變通知が届いたら、まず設計師に連絡する」ことが定石として語られるほどです。


既製家具はどこで買われているのか——主要チャネルの地図

台湾の家具チャネル・ポジショニングマップ|台湾の家具の選び方と内装事情

IKEA(宜家家居)

1994年に台湾へ進出。2026年初時点で全台8店舗に受け取りセンターを加えた体制で、郊外の大型店に加えて都心の小型「城市店」や量販店内の「店中店」など、消費者に近づく多店型戦略を進めています。法人向けの家具レンタルまで手がけ、台湾の家具小売で圧倒的な存在感を持ちます。店舗には法人専用の「企業業務」窓口や企業カード会員向けの優遇も用意されており、家庭用にとどまらず、オフィス・店舗・賃貸物件のオーナーといった法人需要まで取り込む体制です。


宜得利(ニトリ)

日本発のニトリは台湾でも「宜得利家居」として展開。手頃な価格帯の家具とホームファッションをワンストップで揃えられる存在として、新居の「買い足し需要」の受け皿になっています。


詩肯柚木(SCANTEAK)

シンガポール発のチーク材家具チェーンで、世界6カ国・150店超のネットワークのうち台湾に120店超を構え、公式に「台湾最大の家具チェーン」を掲げる存在です。「素材で選ぶ」層に強く、チーク無垢材×北欧デザインのポジションを確立しています。2012年には若年層向けに革ソファなどを扱う姉妹ブランド「詩肯居家(Scan Living)」も立ち上げ、価格帯を広げながら店舗網を拡大してきました。


特力屋・HOLA

DIYホームセンターの特力屋と、ホームファッションのHOLAを擁する特力集団。建材・DIYから系統櫃サービス、家具・雑貨まで、「装潢と家具の中間領域」を広くカバーしています。


本土ブランド・台湾家具産業——競合であり、可能性の証明でもある

忘れてはならないのが、台湾自身の家具産業です。1970年代の台湾は家具OEMの輸出で世界一を誇った「家具王国」であり、産業の海外移転で規模は縮小したものの、製造の技術基盤はいまも残っています。近年は、創業70年の木工所を母体に全台23店舗を展開する「有情門(STRAUSS)」のように、IKEAの2.5倍の価格帯でも支持される本土デザインブランドが年商を伸ばしており、「高くても、質とデザインなら売れる」ことを台湾市場自身が証明しています。日本ブランドにとっては競合であると同時に、プレミアム価格帯が成立する市場だという証左でもあります。


EC・デザインEC

大型ECモールでの家具・寝具の購入も一般化しています。また工芸・デザイン雑貨の領域では、台湾発のデザイン特化型EC・Pinkoi が日本ブランドの出店先として定番になっています。


日本製品への信頼が厚い台湾市場(詳しくは 台湾市場の消費トレンドと日本ブランドの受容性2026)ですが、家具については「サイズ(間取り・搬入経路に合うか)」「湿気(無垢材・金属部の防潮対応)」「価格(輸送費込みで成立するか)」という3つの壁があります。日本仕様をそのまま持ち込むのではなく、台湾の住宅仕様に合わせた調整が前提になります。なお、日本からの家具輸出そのものは拡大基調にあります。林野庁の統計では、2023年の日本の木製家具輸出額は73億4,200万円(前年比7%増)。円安も追い風に、台湾をはじめとするアジア向けと欧米向けが伸びており、財務省貿易統計ベースでも台湾は日本の木製家具輸出の主要仕向け先のひとつです。「日本の家具は台湾で売れるのか」という問いには、すでに市場が答えを出し始めています。


エリアで読む売り場——家具商圏と都市別の狙い方

「台湾市場」とひとくくりにせず、どの街のどの商圏に置くかまで解像度を上げましょう。実店舗の家具商圏には、はっきりした地理的な棲み分けがあります。


台北・新北の家具商圏マップと都市別の狙い方|台湾の家具の選び方と内装事情

文昌家具街(台北・大安区)——設計師が通う客製化の街

台北で家具といえば、まず名前が挙がるのが大安区の文昌家具街です。1960年代から続く約60年の歴史を持ち、100店以上の家具店が1本の通りに連なります。現場でのオーダーメイド・張り替え・スタイル提案を強みとし、「室内設計師に愛される家具街」と紹介される、プロも仕入れに来る商圏です。台北101や信義地区に近く、MRT信義安和駅から徒歩圏。高価格帯・デザイン重視の商材との相性が良い立地です。台北市内ではこのほか、民生西路や南昌路にも家具店の集積があります。


五股工業区(新北)——車で回る郊外大型店エリア

一方、新北市の五股工業区周辺は、大型の家具賣場が広域に点在する郊外型の商圏です。新工路・五工路・中山路にまたがるエリアで、徒歩での回遊は難しく、駐車場を備えた大型店を車で巡るスタイル。1980年代に五股の大型賣場が台頭したことが、文昌街の転機になったと語られるほど、台湾の家具小売の「量」を担ってきたエリアです。


都市別の狙い方

  • 台北市:取引の半数超が築30年超の老屋。高所得(世帯可処分所得148.5万元)×リノベ需要で、質・デザイン重視の一点物や高価格帯と好相性

  • 新北市:板橋・三重・淡水・新莊などの重劃区に小宅供給が集中し、首購(初めて買う)層の受け皿。省スペース・機能性・手頃さが軸

  • 台中市・高雄市:科学園区の進出などで人口が流入し、小宅取引比率の上昇が最も大きいエリア。新築入居に伴う「まとめ買い」需要

  • 新竹県市:半導体産業を背景に世帯所得は全国トップ級。倍率の見た目以上に購買力があり、プレミアム価格帯が通りやすい


住宅市場の地域差(房價所得比・老屋比率・小宅化)の詳しいデータは、姉妹記事で解説しています。


家具消費を動かす3つの構造変化

  • 小宅化の進行:世帯人数は2.89人まで縮小し、小坪数住宅の取引比率が上昇しています。伸縮ダイニング、ソファベッド、壁面収納など、省スペース・多機能型の需要が拡大する構造です

  • 重いローン負担:中位数世帯の返済負担率は42%。入居時の家具予算は圧縮されやすく、「まず系統櫃と手頃な既製家具、数年後に買い替え」という時間差消費が生まれます。初回入居で単価勝負をするより、買い替え時に指名される布石が効きます

  • ストックの高齢化:約950万戸の住宅ストックの老朽化で、老屋の全面リノベーション需要が拡大しています。装潢と同時の家具総入れ替えは、高単価家具にとって最大の商機です


台湾の家具消費を動かす3つの構造変化|台湾の家具の選び方と内装事情

老屋リノベーション——家具が「総入れ替え」される瞬間

構造変化の3つ目に挙げた老屋の翻新は、もう少し詳しく見る価値があります。台北市では住宅取引に占める築30年超の割合が2015年の31.9%から2024年には54.7%へ拡大し、いまや取引の主流です。永慶房産集団の調査では、双北(台北・新北)の住民の3割以上が「築30年超のエレベーターなし集合住宅の購入も検討する」と回答しており、七都で最も高い割合でした。


老屋を買った人の多くは、坪16〜22万元級の全面リノベーションに踏み切り、予算の4〜5割は配管・防水・電気といった基礎工事に消えます。それでもフルリノベは、家具を一度に選び直す数少ない機会です。新築の小宅が省スペース・低単価の勝負になりがちなのに対し、老屋リノベ層は空間に余裕があり、設計師が入って予算全体を設計するため、質で選ばれる家具にとって最も相性の良い市場と言えます。


攻め方はシンプルで、エンドユーザーではなく、リノベ案件を握る設計師・工務店に向けて「この空間にはこれ」と指定してもらえる材料——実例写真・納まりの図面・確実な納期——を揃えることです。


「まとめ買い」する法人顧客——賃貸オーナーと管理業者

消費者向けの裏に、もうひとつの家具市場があります。買い手が法人・オーナーである市場です。家具・家電付きで貸し出される套房の調達者は大家であり、1人で複数戸を運用する職業房東も珍しくありません。


さらに2018年の賃貸住宅専法以降、賃貸管理は急速に産業化しています。管理業者は2025年に2,829社(前年比29%増)へ増え、政府の包租代管は累計10万戸を突破。社会住宅の運営主体も含め、「まとまった戸数の家具・家電を、耐久性と納期で選ぶ」プロの買い手が育っています。IKEAが店舗に法人専用窓口を置いているのは、この市場がすでに成立している証左です。


日本の事業者にとっては、耐久性・メンテナンス性・デザインの統一といったB2B的な価値で勝負できる入口です。1戸ずつの小売と違い、商談化すれば数量がまとまるのも魅力です。


コントラクト市場——ホテル・宿泊という「第三の買い手」

家庭向け・賃貸オーナー向けに続く第三の市場が、ホテル・宿泊施設のコントラクト(施設一括導入)需要です。台湾の宿泊市場はいま、数字の上で明確な拡大局面にあります。交通部観光署の統計では、2025年の延べ宿泊数は8,209万人泊と過去最高を更新し、コロナ前の2019年(7,981万人泊)を上回りました。うち外国人は2,076万人泊で、前年から約183万人泊の増加です。


供給も増え続けています。合法民宿の客室数は2023年の4万9,007室から2025年には5万3,628室へと2年で9.4%増加。2024〜26年にはカペラ台北(86室)、桃園国際空港のハイアットリージェンシー(476室)、金山のインターコンチネンタル系温泉ホテル(211室)、日系の相鉄グランドフレッサといった国際・日系ブランドの新規開業も相次いでいます。


一方で、旅宿業全体の平均稼働率は45〜47%で横ばい。旅館の平均客室単価は2,984元で、約8割のホテルが平均を下回る価格帯にひしめきます。観光署自身が「供給拡大と旅の多様化により、市場は品質競争と分衆化の成熟段階に入った」と分析するとおり、宿泊施設は客室の設えと体験で選ばれる時代に入りました。ここで投資対象になるのが、家具・什器・備品——いわゆるFF&Eです。


台湾の宿泊市場データとコントラクト(FF&E)市場|台湾の家具の選び方と内装事情

コントラクトの商流は住宅とよく似ています。ホテルの家具は施主が1点ずつ選ぶのではなく、設計事務所や運営会社が仕様書で指定します。つまりここでも鍵を握るのはB2Bで、ロット対応力・納期の確実さ・ハードユースに耐える耐久性とメンテナンス性、そして「その空間の物語に合う」デザインの提案力が問われます。客室数十室分の一括受注は、家庭向けの積み上げとは桁の違う商談になり得ます。


日本の家具・インテリア事業者への示唆——どこから入るか

最後に、参入ルートを整理します。

  • B2B(設計師・系統櫃業者・輸入商):装潢の意思決定チェーンに入る王道。カタログ・価格表・納期・保証の繁体字整備が最低条件

  • 展示会:台湾の家具関連の展示会 で代理店・設計師・バイヤーと接点を作る。工芸・ライフスタイル寄りの商材なら DG Taiwan も有力

  • 百貨店催事・ポップアップ:日本物産展や周年慶の催事でテスト販売し、反応を見てから常設・代理店へ進む

  • EC:PinkoiなどのデザインECで小物・インテリア雑貨から入り、ブランド認知を作る


規模感の目安として、ギフト・デザイン系のDG Taiwanは2026年に260社・403ブース、文創系の台湾文博会は2025年に426社・932ブース・来場延べ65万人という水準です。各展示会の性格と選び方は、上記リンク先の解説記事をご覧ください。


「いつ売るか」も重要です。台湾の消費は春節や周年慶(9〜12月の百貨店セール)などの商戦期に集中します。詳しくは 台湾の年間商戦カレンダーと贈答文化 をご覧ください。また、関税・輸送費・現地価格の逆算は 台湾への輸出にかかる関税・コスト・価格設定ガイド で解説しています。


台湾市場攻略の全体像は 台湾市場進出 完全ガイドマップ2026 にまとめています。


設計師チャネルに入るための実務——B2B営業チェックリスト

参入ルートの王道であるB2B——設計師・系統櫃業者・輸入商への営業では、日本国内の商習慣のままだと入口で弾かれがちです。弊社が支援の現場で最低限整えていただくのは、次の5点です。

  • 繁体字の営業資料一式:カタログ・価格表(建値条件を明記)・納期・保証条件。簡体字の流用は不可

  • 台湾の住宅仕様に合わせたサイズ情報:小さめの室内坪数とエレベーター搬入を前提に、梱包サイズ・分解可否まで記載する

  • 湿気対応のエビデンス:無垢材の含水率管理や金属部の防錆処理など、亜熱帯の環境で使えることを示すデータや実績

  • 納期と最小ロット:設計師案件は「この物件のこの壁面に、この日までに」という指名買い。一点物は納期が武器にも壁にもなる

  • 現地の受け皿:輸入・配送・組立・アフターを誰が担うのか。輸入商や代理店と組む場合の役割分担を先に設計する


アプローチの順序は、展示会や商談会で設計師・輸入商との接点を作り、少数の案件で納入実績を作ってから面を広げるのが定石です。台湾の設計師コミュニティは横のつながりが強く、1件の実績が次の指名につながりやすい市場です。なお台湾の商談は名刺交換よりLINEの交換から始まり、その後のレスポンスの速さが信頼に直結します。展示会で集めた名刺の束よりも、つながったLINEを即日動かせる体制のほうが成果につながります。


価格については、輸送費・関税・中間マージンを積み上げると、現地価格は日本国内価格から大きく上がります。「日本の売価からの積み上げ」ではなく、「台湾の競合価格・装潢予算の取り分からの逆算」で仕様とグレードを決める——この順番の転換が、B2B商談を通すうえでの分かれ目になります。


輸入の実務——関税・奢侈税・検験・搬入

最後に、家具を台湾へ送る際の実務を整理します。


台湾へ家具を輸入する際の関税・奢侈税・検験・搬入の早見表|台湾の家具の選び方と内装事情

関税と税金

家具(税則第94章)は輸入のハードルが比較的低いカテゴリーで、木製家具の多くは関税率0%、品目によって2〜5%程度です。ただし関税がゼロでも、営業税5%は「商品価格+国際運賃+保険料(完税価格)」に対して必ず課されます。正確な税率は品目のHSコードごとに、関港貿単一窓口の税則税率検索システムで確認するのが確実です。


見落としがちなのが「特種貨物及労務税(いわゆる奢侈税)」です。家具は、完税価格に関税等を加えた金額が50万元(約250万円)を超えると10%が課されます。ハイエンドの一枚板テーブルや高級ソファなど、高単価品を扱う事業者は価格設計の段階で織り込んでおく必要があります。


検験が必要になるケース

「家具だから規制なし」とは限りません。電動リクライニングソファ・電動昇降デスク・照明付きヘッドボードなど電気を使う家具は、BSMI(経済部標準検験局)の検験対象品目に該当する可能性があります。子ども向け家具にも商品検験の要求がかかる品目があります。出荷前にCCCコードで検験規定を確認するか、通関業者に照会するのが安全です。


搬入という最後の壁

台湾には、エレベーターのない5階建て以下の公寓が大量にあります。階段搬入は階数に応じた追加料金(1階あたり数百元)が相場で、ソファやマットレスが階段を通らない場合は、窓からのクレーン(吊車)搬入で1回3,000元〜という世界です。実木・ガラス・大理石天板は海上輸送時の木枠梱包(1件数百元)も事実上必須。日本で製品を設計する段階から「分解できるか・梱包サイズはいくつか」を仕様に織り込んでおくと、この最後の壁がぐっと低くなります。


よくある質問(FAQ)

台湾で家具はどこで買うのが一般的ですか?

収納系の家具は、入居前の内装工事(装潢)の際に系統櫃(造り付けのシステム家具)で作るのが主流です。ソファやベッドなど動かせる家具は、IKEA・宜得利・詩肯柚木などのチェーンや家具店、ECで購入されます。


系統櫃とは何ですか?

工場で規格板材をカット・加工し、現場で組み立てる半オーダーの造り付け家具です。工期が短く品質が安定していることから、クローゼットやテレビボードなど収納系の標準的な選択肢になっています。


台湾の内装(装潢)費用の相場は?

新成屋で坪6〜8万元、中古屋で坪8〜12万元以上、老屋の全面リノベーションで坪16〜22万元が目安です。総額では物件価格の10〜15%を見込むのが一般的です。


内装は誰に頼みますか?

室内設計師(設計事務所)、統包(工務店への一括請負)、自行發包(工種ごとの分離発注)の3ルートがあります。設計師に依頼する場合の設計費の相場は坪4,000〜1万5,000元です。


日本の家具メーカーが台湾市場に入るには?

設計師・系統櫃業者・輸入商へのB2B営業、家具関連展示会への出展、百貨店催事でのテスト販売、デザインECへの出店が主なルートです。サイズ・湿気・価格の3点を台湾仕様に調整することが前提になります。


老屋リノベーション市場はなぜ注目なのですか?

台北市では住宅取引の半数以上が築30年超で、全面リノベーションの際に家具が一度に選び直されるためです。設計師が予算全体を設計する案件が多く、質で選ばれる家具と相性の良い市場です。


賃貸物件向けの家具は誰が買いますか?

家具・家電付きで貸し出す大家(不動産オーナー)や、包租代管の管理業者・社会住宅の運営主体です。まとまった戸数を耐久性と納期で選ぶ法人型の市場で、消費者向けとは別の販路になります。



台湾の家具・インテリア市場への展開をご検討中の企業さまへ

株式会社Link Globalは、家具・工芸品をはじめとする日本ブランドの台湾・アジア展開を支援する海外進出コンサルティング会社です。市場調査からバイヤー・代理店開拓、展示会出展の実務(詳しくは 台湾展示会の出展・視察支援)、現地プロモーションまで、100社以上の海外展開をワンストップで支援してきました。


「自社の家具は台湾で戦えるのか」という初期のご相談から承ります。詳しくは 台湾進出支援サービス をご覧いただくか、お問い合わせフォーム からお気軽にご相談ください。


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