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「アジア向け食品輸出」は7つの別々の市場だった|2025年の数字で読む国ごとの違い

  • 堤浩記
  • 8月13日
  • 読了時間: 19分

更新日:6 日前

「アジア向け食品輸出」は7つの別々の市場だった|2025年の数字で読む国ごとの違い

本記事のデータについて

本記事の金額データは、農林水産省が公表した2025年(令和7年)の輸出実績のうち、確々報値にあたる「農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」および「同(品目別)」に基づいています。いずれも財務省「貿易統計」をもとに農林水産省が作成したものです。原典の図表を転載したものはなく、本記事のグラフ・表はすべて公表数値をもとにLink Globalが作成しています。


なお、2026年2月3日公表の速報値と、その後の確々報値とでは、一部の前年比が小数第1位で異なります(香港:速報+0.8%/確々報+0.9%、ベトナム:速報+10.7%/確々報+10.6%など)。本記事は確々報値を採用しています。なお、ジェトロのビジネス短信は香港を0.8%増と表記しており、当サイトの香港市場を扱った記事はジェトロ表記に統一しているため、同じ香港の数字が記事によって0.8%と0.9%に分かれています。


一人当たり輸出額は、公表輸出額をIMF World Economic Outlook(2026年4月版)の2025年推計人口で除して算出した参考値であり、公的に公表されている指標ではありません。市場ごとの構成比は、少額貨物を除く輸出額1兆5,973億円を分母としています。


なお、統計の対象期間(2025年1〜12月)の後に前提が変わっている点があります。中国向け水産物は2025年6月に条件付きで輸入が再開されましたが、同年11月に新規の輸出申請が事実上凍結され、本記事の執筆時点(2026年8月)でも本格的な再開には至っていません。中国の数字はこの点を踏まえてお読みください。


「うちの商品、アジアで売れませんかね」

食品輸出のご相談をいただくとき、この形で切り出されることがとても多くあります。日本から近く、日本食の人気も高い。まずアジアから、と考えるのは自然なことです。

ただ、ここで一度立ち止まっていただきたいことがあります。「アジア」というひとつの市場は、実は存在しません。

2025年の公的統計を国ごとに開いていくと、同じアジアでも、売れているものがまったく違う。ある国では輸出額の半分が水産物なのに、別の国では4%にも届かない。ある国では輸出品の2位が「丸太」です。木材です。

そして、人ひとりあたりの感覚で言えば、香港と中国では232倍もの差があります。

この記事では、農林水産省が公表した2025年の輸出実績をもとに、アジア主要7市場(中国・香港・台湾・韓国・ベトナム・タイ・シンガポール)の中身を実際に開いてみます。輸出がまだこれからという食品メーカーの方に向けて、専門用語はできるだけ避けて書きました。

読み終えるころには、「アジアで売りたい」ではなく「自社の商品は最終製品なのか、原料なのか」という問いに変わっているはずです。

1. その前に ― この統計は「食品」以外も数えています

本題に入る前に、ひとつだけ前提を共有させてください。ここを飛ばすと、このあとの数字をほぼ確実に読み違えます。

日本政府が発表している「農林水産物・食品の輸出額」は、次の3つの合計です。

分野 | 2025年の金額 | 含まれるもの

  • 農産物 1兆1,008億円 / 牛肉、りんご、米、お酒、調味料、お菓子、緑茶、たばこ、花・植木

  • 水産物 4,231億円 / ぶり、ホタテ貝、いわし、練り製品、真珠、錦鯉

  • 林産物 735億円 / 製材、合板、丸太、木製家具

太字にしたものに注目してください。真珠も、錦鯉も、丸太も、たばこも、この「食品」の統計に入っています。

これは統計がおかしいのではなく、そもそも「農林水産物・食品」という枠組みだからです。ただ、この前提を知らずにランキングを見ると、こんな誤解が生まれます。

  • 「香港向けの輸出1位は真珠か。香港では真珠が食べられているのか」→ 違います。宝飾用の原料です。

  • 「中国向けの2位は丸太。中国で日本の木を食べる文化が?」→ 違います。建材や家具の材料です。

つまり、国別の総額ランキングだけを見ても、自社商品の市場の大きさは分からないということです。これがこの記事の出発点になります。

出典:農林水産省「令和7年(2025年)農林水産物・食品の輸出額」(確々報値)


2. 2025年の全体像 ― 過去最高の1兆7,005億円

前提を押さえたところで、まず全体を見ましょう。

日本の農林水産物・食品輸出額の推移(2012〜2025年)

日本の農林水産物・食品輸出額の推移(2012〜2025年)。2025年は1兆7,005億円で13年連続の過去最高。少額貨物を含む金額です。(出典:農林水産省「令和7年(2025年)農林水産物・食品の輸出額」(確々報値)をもとに作成)


2025年の日本の農林水産物・食品の輸出額は1兆7,005億円、前年から+12.8%(+1,934億円)の増加でした。これで13年連続の過去最高更新です。

2012年の4,497億円から13年で3.8倍。かなり力強い伸びです。2025年に特に伸びたのは、緑茶(+357億円)、ホタテ貝(+211億円)、ぶり(+113億円)、牛肉(+83億円)などでした。

緑茶が伸びている理由は、農林水産省の分析によれば、欧米・ASEAN向けで健康志向と日本食への関心が高まり、ラテやスイーツの原料になる抹茶などの粉末状のお茶が中心に増えたためだそうです。飲むお茶ではなく、材料としてのお茶が伸びている、というのは示唆的です。

輸出先ランキング ― 上位10のうち7つがアジア

2025年 国・地域別 輸出額ランキング

2025年の国・地域別 輸出額ランキング。上位10のうち7つをアジア市場が占めています。(出典:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」をもとに作成)


国・地域別に見ると、こうなっています。

  • 1位 米国 2,762億円(前年比 +13.7%)

  • 2位 香港 2,228億円(前年比 +0.9%)

  • 3位 台湾 1,812億円(前年比 +6.4%)

  • 4位 中国 1,799億円(前年比 +7.0%)

  • 5位 韓国 1,094億円(前年比 +20.0%)

  • 6位 ベトナム 954億円(前年比 +10.6%)

  • 7位 タイ 735億円(前年比 +17.1%)

  • 8位 シンガポール 563億円(前年比 +1.2%)

  • 9位 ロシア 414億円(前年比 +439.3%)

  • 10位 オーストラリア 382億円(前年比 +16.6%)

1位は米国ですが、2位から8位まではすべてアジアです。この7市場だけで9,185億円、少額貨物を除く輸出額15,973億円の57.5%を占めます。

「やっぱりアジアだ」と思われたかもしれません。ここまでは、その通りです。問題はここからです。

出典:農林水産省「令和7年(2025年)農林水産物・食品の輸出額」(確々報値)


3. 総額では見えないこと ― 一人当たりで232倍の差

国別の総額を見ていると、どうしても「中国は1,799億円もある大市場だ」という印象になります。ですが、その国の人口で割ってみると、風景が変わります。

アジア7市場の一人当たり日本産食品輸出額(2025年)

アジア7市場の一人当たり日本産食品輸出額(2025年)。公表輸出額を人口推計で除した参考値であり、公的に公表されている指標ではありません。(出典:農林水産省の輸出実績およびIMF World Economic Outlook 2026年4月版の2025年推計人口をもとにLink Global算出)


市場 | 一人当たり日本産食品の輸出額

  • 香港:29,667円

  • シンガポール:9,260円

  • 台湾:7,777円

  • 韓国:2,116円

  • タイ:1,026円

  • ベトナム:933円

  • 中国:128円

香港と中国で232倍の差があります。

総額で見れば中国1,799億円はシンガポール563億円の3.2倍ですが、一人当たりではシンガポールが中国の72倍になります。順位が完全に逆転するのです。

これは何を意味するか。一人当たりの数字が大きい市場は、日本産の食品が日常的に消費されている市場だと考えられます。逆に一人当たりが小さい市場では、人口は多くても、日本産が一般の食卓に届いているとは言いにくい。

ただし、この数字は「一人当たり消費額」ではありません。計算は輸出額をその国の人口で割っただけで、それ以上の加工はしていません。読むうえで押さえておきたい点が3つあります。

1つ目は再輸出です。香港とシンガポールは再輸出のハブで、陸揚げされた後に第三国へ流れる分も統計上はその市場向けに計上されます。上位2市場が両方ともハブなので、この影響は小さくありません。

2つ目は食品以外が含まれることです。香港の1位は真珠355億円、中国の2位は丸太269億円でした。第1章で触れたとおり、この統計は食品以外も数えています。

3つ目は価格の段階です。輸出額はFOB価格、つまり日本を出る時点の価格です。関税・輸送費・現地の流通マージンが乗る前の数字なので、現地の小売価格とは違います。

そのうえで、この指標は「日本からその市場へ、人口1人あたりどれだけ送り出したか」を示します。消費の実態そのものではありませんが、市場の厚みを大まかに比べる目安にはなります。

「人口14億人の巨大市場」という言葉は魅力的ですが、実際に日本産食品が届いているのは一人あたり128円分です。缶コーヒー1本にも届きません。

出典:輸出額は農林水産省「令和7年(2025年)農林水産物・食品の輸出額」(確々報値)、人口はIMF World Economic Outlook(2026年4月版)の2025年推計値。一人当たり額はLink Globalによる算出値です。


4. 本題 ― 同じアジアでも、中身がまったく違う

ここからが、この記事で一番お伝えしたいところです。

7つの市場それぞれについて、「輸出額の中身」を品目のカテゴリごとに分解して、構成比(何%を占めるか)で並べてみました。

アジア7市場の品目カテゴリ別構成比(2025年)

アジア7市場の品目カテゴリ別構成比(2025年)。同じアジアでも農産物・水産物・林産物の比率が大きく異なります。(出典:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」をもとに作成)


同じ「アジア」なのに、帯の形がまるで違うことが分かると思います。

水産物の比率

ベトナム51.7% / タイ47.0% / 香港38.4% / 韓国33.3% / 台湾22.2% / シンガポール17.3% / 中国3.7%

ベトナムと中国では14倍の開きがあります。ベトナム向け輸出は半分以上が魚介類なのに、中国向けはほぼゼロに近い。

加工食品の比率

中国54.7% / 韓国42.3% / シンガポール40.1% / 台湾38.8% / 香港28.7% / ベトナム23.3% / タイ17.5%

加工食品というのは、お酒、調味料、清涼飲料水、お菓子など、そのまま消費者が口にするものが中心のカテゴリです。ここの比率が高い市場は、日本の食品が「最終製品」として売れている市場だと考えられます。

林産物

中国だけが19.2%と突出しています。他の6市場は0.8〜3.6%。中国向け輸出のおよそ5分の1は木材関連です。

出典:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」


5. 7つの市場、それぞれの顔

構成比だけでは分かりにくいので、1市場ずつ見ていきます。

香港 ― 世界2位の規模。ただし10年でわずか1.2倍

2,228億円/前年比+0.9%/一人当たり29,667円

金額だけ見れば米国に次ぐ世界2位、一人当たりでも7市場で圧倒的1位です。ところが、2015年の1,794億円から10年で1.2倍にしかなっていません。7市場で最も伸びが鈍く、2025年もほぼ横ばいでした。

上位品目は、1位が真珠(355億円)、2位が牛肉(95億円)、3位がお酒(93億円)。さらに、なまこ(70億円)やホタテ貝の加工品(74億円)といった高級な乾物の存在感が大きいのが特徴です。

日常の食卓というよりは、贈答用、高級中華料理、そして他国への再輸出のハブという性格が強い市場です。2025年に伸びが止まった直接の原因も、ホタテ貝加工品(▲59億円)となまこ(▲26億円)というこの高級乾物の減少でした。

中国 ― 規模は大きいが、ピークから34%減

1,799億円/前年比+7.0%/一人当たり128円

7市場で最も変動が大きい市場です。2022年には2,740億円ありましたが、日本産水産物の輸入規制の影響で2024年には1,681億円まで落ち込みました。2025年は+7.0%と持ち直しましたが、ピーク比では▲34%です。

構成の変化が劇的です。2022年に467億円あったホタテ貝は、2025年には上位10品目から姿を消しました。水産物全体で67億円、構成比3.7%です。

代わって、お酒(292億円)、丸太(269億円)、清涼飲料水(151億円)が上位を占めています。7市場で唯一、「食品以外」が輸出の柱になっている市場です。丸太に至っては、日本の丸太輸出298億円のうち90.0%が中国向けという集中ぶりです。

日本産水産物をめぐる状況は、この統計が対象とする2025年1〜12月の後も動いています。2025年6月に中国が10都県産を除く日本産水産物の輸入を条件付きで再開し、同年11月には北海道産の冷凍ホタテが約2年ぶりに中国へ向けて出荷されました。しかしその直後、日中間の政治的な緊張を背景に新規の輸出申請が事実上凍結され、本記事の執筆時点(2026年8月)でも本格的な再開には至っていません。中国向けの水産物は、制度上の可否とは別に、政治情勢によって短期間で前提が変わりうる市場だと考えておく必要があります。

台湾 ― 10年で1.9倍。急落も停滞もない

1,812億円/前年比+6.4%/一人当たり7,777円

952億円から1,812億円へ、10年で1.9倍。2020年以降は毎年着実に増えており、最も読みやすい市場と言えます。

面白いのは、売れるものが入れ替わってきていることです。台湾向けといえば長らく「りんご」が1位でした。それが2023年にお酒に抜かれ、2025年のりんごは▲28.6%と大きく減っています。

代わりに上位に来ているのが、お酒(174億円)、ホタテ貝(133億円)、牛肉(133億円)、調味料(102億円)。さらに、うなぎ(51億円)が新たに上位入りしています。

贈答用の果物から、日常的な加工食品や飲食店向けの食材へ、需要の軸が移りつつあると見ることができます。

韓国 ― 大型市場で最も伸びている

1,094億円/前年比+20.0%/一人当たり2,116円

2025年に+20.0%と、1,000億円を超える市場では最も高い伸びを記録しました。

特徴は、消費財と水産物が同時に伸びていることです。1位のお酒194億円のうちビールが107億円で、これは日本のビール輸出先として世界1位。日本酒も44億円あります。一方で水産物も33.3%を占め、ぶり119億円(前年比+55.4%)、たい57億円は、いずれも日本からの輸出先として世界1位です。

「日本の酒を飲み、日本の魚を刺身で食べる」市場が、隣にある。7市場のなかで最もバランスの取れた形をしています。

ベトナム ― 10年で2.8倍。7市場で最速

954億円/前年比+10.6%/一人当たり933円

345億円から954億円へ。伸び率だけを見れば、7市場で最も勢いのある市場です。

ただし中身を見ると、上位はホタテ貝(198億円)、さば(59億円)、かつお・まぐろ類(46億円)。水産物が51.7%を占め、しかも生鮮や冷凍の「原魚」が中心です。

2025年にホタテ貝が106億円から198億円へ、+86.4%と伸びたことが成長の主な要因でした。一方で一人当たりは933円と7市場で6位です。

タイ ― 2025年の伸び率は+17.1%

735億円/前年比+17.1%/一人当たり1,026円

上位5品目のうち4つが水産物です。いわし(72億円)、ホタテ貝(61億円)、かつお・まぐろ類(58億円)、さば(42億円)。ベトナムとよく似た構成です。

日本のいわし輸出207億円のうち34.8%がタイ向け。かつお・まぐろ類も26.9%がタイ向けです。

一方で、緑茶が29億円(前年比+156.9%)と急増し、インスタントコーヒー(26億円)も新たに上位入りしました。消費財の側でも動きは出ています。

シンガポール ― 「食べる市場」だが、規模の天井が近い

563億円/前年比+1.2%/一人当たり9,260円

7市場のなかで最も「最終消費地」らしい構成をしています。農産物が81.6%と突出し、水産物は17.3%どまり。加工食品と畜産品で6割を占めます。

1位はお酒(100億円)で、これだけで全体の18%。2024年の78億円から+28.9%と伸びました。うちウイスキーが65.7億円で、前年比+49.9%です。

一人当たりでは9,260円と香港に次ぐ2位で、市場としての「厚み」は十分にあります。ただし総額は563億円で、2022年の525億円以降ほぼ横ばい。人口約600万人という規模の制約が効いてきています。

出典:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」。中国向け水産物の輸入再開および新規申請凍結の経緯は各社報道による。


6. 市場をまたげる品目と、1市場に張り付く品目

ここまで「市場ごと」に見てきましたが、視点を「品目ごと」に変えると、もうひとつ大事なことが見えてきます。

主要品目の輸出先の広がりと1市場への集中度

主要品目の輸出先の広がりと1市場への集中度。複数市場に展開できる品目と、特定市場に依存する品目の違いを示しています。(出典:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(品目別)」をもとに作成)


複数市場に横断する品目

品目 | 世界計 | 広がり方

  • アルコール飲料 1,495億円 / 中国・台湾・韓国・シンガポールの4市場で輸出1位

  • ホタテ貝 906億円 / ベトナム1位・台湾2位・タイ2位・韓国3位・香港8位

  • 牛肉 731億円 / 香港2位・台湾3位・シンガポール2位・タイ4位

  • ソース混合調味料 721億円 / 台湾5位・韓国4位・シンガポール4位

1つの市場に集中する品目

品目 | 世界計 | 集中度

  • 鶏卵 81億円 / 香港が94.2%

  • 丸太 299億円 / 中国が90.0%

  • なまこ(調製) 79億円 / 香港が88.9%

  • 真珠 412億円 / 香港が86.2%

  • りんご 144億円 / 台湾が73.3%

この違いは、取れる戦略に直結します。

横断する品目を扱っているなら、市場を分散してリスクを下げることができます。一方、集中する品目を扱っているなら、その1市場の動向が業績を直撃します。

そして実際、それは2025年に起きました。

出典:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(品目別)」


7. 全体が伸びていても、減っている品目はある

全体は+12.8%。にぎやかなニュースの裏で、しっかり減っている品目があります。

2025年に減少した主な品目と減少率

2025年に前年から減少した主な品目と減少率。輸出全体が過去最高でも、品目単位では減少しているものがあります。(出典:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(品目別)」をもとに作成)


品目 | 2024年 | 2025年 | 前年比 | 主な減少市場

  • ホタテ貝加工品 177億円 → 118億円(▲33.2%) / 香港 ▲36.7%

  • りんご 201億円 → 144億円(▲28.6%) / 台湾 ▲32.5%

  • なまこ(調製) 105億円 → 79億円(▲24.8%) / 香港 ▲22.6%

  • 植木等 79億円 → 61億円(▲23.1%) / ベトナム ▲45.0%

  • ぶどう 59億円 → 47億円(▲21.3%) / 台湾・香港

  • 米菓 66億円 → 60億円(▲9.3%) / 米国・台湾

前の章と見比べてください。減っている品目の上位は、集中度の高い品目とほぼ一致しています。

香港が88.9%を占めるなまこは▲24.8%。台湾が73.3%を占めるりんごは▲28.6%。香港が62.4%を占めるホタテ貝加工品は▲33.2%。

1つの市場に依存している品目は、その市場が変調すると、そのまま業績に跳ね返ります。「輸出全体は好調」というニュースは、自社の品目にはまったく当てはまらないかもしれない、ということです。

出典:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(品目別)」


8. 7つの市場を、タイプに整理してみる

ここまでの7市場を、性格ごとに整理してみます。

なお、ここから先は当社(Link Global)の見方です。 公的統計から直接読み取れる事実ではなく、構成比・品目構成・一人当たり輸出額からの解釈であることを、あらかじめお断りしておきます。

アジア7市場の6類型

アジア7市場を性格別に整理した6類型。統計から直接導かれる分類ではなく、輸出額・構成比・成長率をもとにしたLink Globalによる整理です。(元データ:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」)


タイプ | 該当市場 | 特徴

  • ① 成熟・高単価型 香港 / 高級品に依存。一人当たりは最大だが伸びしろは限定的

  • ② 政策変動型 中国 / 規模は大きいが規制で構造ごと変わる。食品以外の比重も大

  • ③ 移行期・多品目型 台湾 / 果物から加工食品・酒類へ需要が移行中。読みやすい

  • ④ 消費財・水産ハイブリッド型 韓国 / 酒と魚が同時に伸びる。大型市場で最高の成長率

  • ⑤ 原料供給型 ベトナム・タイ / 水産物が約半分。現地の食品加工向け原料が中心

  • ⑥ 小規模・高単価型 シンガポール / 一人当たりは厚いが人口規模の制約で総額は頭打ち

とくに重要なのが⑤の原料供給型です。

ベトナムとタイで売れている生鮮・冷凍のホタテ貝、さば、いわし、かつお・まぐろ類は、現地の消費者が家庭で食べているというより、現地の水産加工工場やツナ缶メーカー、ペットフード工場が仕入れている原料である可能性が高いと考えられます。

これは統計上の「用途」データがあるわけではなく、品目の顔ぶれからの推測です。ただ、一人当たり輸出額がベトナム933円・タイ1,026円と低いことも、この見方と整合します。消費市場が育ったのではなく、工場の稼働が増えた、という説明のほうが自然に見えます。

そして、これが分かると何が言えるか。「伸びている市場」と「自社の商品が売れる市場」は、必ずしも一致しません。

元データ:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」。6類型への整理はLink Globalによるもので、統計から直接導かれる分類ではありません。


9. お菓子で考えてみる ― 伸び率トップの市場が、消える

抽象的な話になってきたので、具体的な品目でやってみましょう。お菓子(米菓を除く)を例にとります。

菓子(米菓を除く)の輸出先 上位5カ国・地域(2025年)

菓子(米菓を除く)の輸出先 上位5カ国・地域(2025年)。(出典:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(品目別)」をもとに作成)


2025年のお菓子(米菓を除く)の輸出額は374億円、前年比+8.8%。米菓(あられ・せんべい)は60億円で▲9.3%でした。合計434億円で、輸出全体の約2.7%にあたります。

輸出先の上位5は、こうなっています。

  • 1位 米国 75.4億円

  • 2位 香港 67.3億円

  • 3位 中国 54.4億円

  • 4位 台湾 44.8億円

  • 5位 韓国 25.7億円

伸び率トップだったベトナム(+10.6%)とタイ(+17.1%)が、上位5に入っていません。

両国は5位の韓国25.7億円を下回ります。さらに、ベトナム・タイそれぞれの「輸出品目トップ10」にもお菓子は入っていないため、ベトナムは22億円未満、タイは17億円未満と推定されます。

もしお菓子メーカーの方が、国別ランキングと成長率だけを見て「ベトナムとタイが伸びているらしい、ここに行こう」と判断したら、どうなるでしょうか。現地に行ってみたら、日本から輸入されているのは水産加工工場向けの冷凍いわしとホタテ貝ばかりだった、ということになりかねません。

一方で、お菓子の上位5はすべて一人当たり輸出額の上位市場か北米です。「アジアで伸びている市場はどこか」という問いの立て方だと、この結論には辿り着けません。

出典:農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(品目別)」


10. では、どう進めればいいか ― 3つのステップ

輸出をこれから始める食品メーカーの方に、私たちがお伝えしている進め方は、とてもシンプルです。

STEP 1:自社の商品は「最終製品」か「原料」か

ここが決まらないと、市場は選べません。

最終製品(パッケージに入って消費者がそのまま買うもの)なら、向かうべきは香港・台湾・韓国・シンガポール。会うべき相手は小売バイヤー、外食チェーン、輸入商社です。準備するものは、多言語パッケージ、少量ロットへの対応、産地の物語、賞味期限の設計。

原料(現地のメーカーが加工して別の製品にするもの)なら、向かうべきはベトナム・タイ。会うべき相手は現地の食品加工メーカーや原料商社です。準備するものは、規格書、年間の供給可能量、FOB価格表、品質証明。

同じ「アジア進出」でも、持っていく資料からして別物になります。

STEP 2:候補市場を2つ以上に絞る

1つに絞らないでください。

中国はピーク比▲34%です。これは商品力の問題ではなく、輸入規制という外部要因によるものでした。1市場に依存していると、規制ひとつで事業計画が崩れます。第7章で見たとおり、集中度の高い品目ほど下振れが大きくなります。

STEP 3:3つの角度から検証する

① 品目別データで実際の市場規模を見る

国別の総額ではなく、自社の品目が各市場にいくら出ているかを確認します。農林水産省の「品目別」資料には、主要品目ごとの輸出先上位5カ国とその金額が載っています。

② 単価の水準を確認する

同じ資料には、金額と数量が併記されています。割り算をすればキロ単価が出ます。その市場が高単価品を受け入れるのかどうかが、ここで見えます。

③ 現地バイヤーの反応で仮説を検証する

この記事の類型分けも、あくまで仮説です。実際の商談で、想定した相手が、想定した価格で反応するか。ここで初めて戦略が固まります。

まとめ

長くなりましたので、4点に絞ります。

1. 「アジア向け輸出」という単位で考えない

水産物の構成比はベトナム51.7%から中国3.7%まで14倍、一人当たり輸出額は香港29,667円から中国128円まで232倍の開きがあります。

2. 伸び率の高さは、自社商品の売れやすさとは別

2025年に伸びたタイ(+17.1%)とベトナム(+10.6%)の成長は、現地加工向けの水産原料が牽引したものでした。お菓子で見れば、両国は上位5にも入りません。

3. 全体が伸びていても、品目によっては減っている

全体+12.8%の裏で、ホタテ貝加工品▲33.2%、りんご▲28.6%、なまこ▲24.8%。1市場に集中する品目ほど、下振れは大きくなります。

4. まず「最終製品か原料か」を決める

これが決まれば、見るべき市場も、会うべき相手も、準備すべき資料も自ずと決まります。

ご相談ください

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こうしたご相談を承っています。この記事でご紹介したような市場データの読み解きから、実際のバイヤーとのマッチングまで、段階に応じてお手伝いします。まずは現状をお聞かせください。

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本記事のデータ出典

  • 農林水産省「令和7年(2025年)農林水産物・食品の輸出額」(確々報値)

  • 農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(国・地域別)」

  • 農林水産省「2025年農林水産物・食品の輸出実績(品目別)」

  • 人口:IMF World Economic Outlook(2026年4月版)2025年推計値

金額はすべて公的統計から引用しています。一人当たり輸出額は、公表輸出額をIMFの人口推計で除して算出した数値です(再輸出・非食品を含み、FOB価格ベース)。市場ごとの構成比は、少額貨物を除く輸出額15,973億円を分母としています。

第8章の「6類型」、ベトナム・タイの水産物が現地加工向け原料であるという解釈、および第10章の進め方は、これらのデータをもとにしたLink Globalの見解であり、統計から直接導かれるものではありません。ベトナム・タイのお菓子輸出額は、上位5位(韓国25.7億円)および各国の上位10品目の水準からの推定値です。

7市場のうち香港については、輸出額2位でありながら伸び率が0.8%にとどまる理由と、10都県規制の正確な範囲を香港への食品輸出2026で詳しく掘り下げています。中国向けの越境ECルートについては中国向け越境ECの制度ガイド2026をご覧ください。


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