日本の器はそのままでは並べられない|陶磁器のマレーシア輸出2026
日本の陶磁器をマレーシアの百貨店やギャラリー、輸入代理店に卸そうとしたとき、最初に確認すべきなのは価格でもデザインでもありません。「その器を、そのままの状態で店頭に並べられるか」です。
マレーシアでは、食品に接触する陶磁器は雑貨ではなく食品衛生の枠組みで規制されます。根拠は食品法1983(Food Act 1983/Act 281)に基づく食品規則1985(Food Regulations 1985)の第28条と第13付表。ここで鉛とカドミウムの溶出限度が定められているだけでなく、1点ずつの器に対して「消えない形での表示」が義務づけられています。表示すべき項目には原産国と「FOR FOOD CONTACT」の文言が含まれます。高台に窯印しか入っていない器は、この要件を満たしていません。
さらに、この第28条は2026年8月1日に改正が施行されたばかりです。食品(改正)規則2026(P.U.(A) 48/2026)により、従来の3区分に「調理器具(cooking ware)」が加わって4区分となり、試験の検体数と判定方法も条文上明確化されました。施行からまだ日が浅い改正であり、解説記事や業者資料を参照する際は改正が反映されているかどうかの確認が欠かせません。
本記事では、日本の器をマレーシアに輸出して現地の小売・ギャラリー・輸入代理店に卸すために必要な規制知識を、法令とマレーシア保健省のガイドラインまで遡って整理します。溶出基準、表示義務、輸入時の分析証明書(COA)、非食品接触品の扱い、関税とSST、そしてハラルとの関係まで、商談の場でバイヤーと対等に話せる水準を目標にしています。
本記事のデータについて
本記事で扱う規制情報は、以下の一次情報・準一次情報に基づいています。
根拠法令:食品法1983(Food Act 1983/Act 281)および食品規則1985(Food Regulations 1985/P.U.(A) 437/1985)第28条・第13付表。
改正:食品(改正)規則2026(Food (Amendment) Regulations 2026/P.U.(A) 48/2026)。2026年1月30日に官報公布、2026年8月1日施行。官報本文はマレーシア法令庁のサイトが自動取得を許可していないため直接参照できておらず、改正内容はSGSおよびChemLinkedの解説(いずれも2026年2月)で相互に一致することを確認したうえで記載しています。
運用ガイドライン:マレーシア保健省 食品安全・品質部(Food Safety and Quality Division, Ministry of Health Malaysia)「Guidelines on importation of ceramic ware intended to be used in the preparation, packaging, storage, delivery or exposure of food for human consumption」。輸入手続きに関する記述は2017年7月15日施行時点のもの。
関税・税制:マレーシア関税局(Royal Malaysian Customs Department)の関税令2022(Customs Duties Order 2022)、売上税(税率)令2025(Sales Tax (Rate of Tax) Order 2025)、およびマレーシア財務省の2025年7月1日付SST改定の発表。
貿易統計:UN COMTRADE(マレーシアの対日輸入額・2025年)。
原典の図表は転載せず、数値から独自に整理しています。原典にない数値の推定補完は行っていません。また、保健省のガイドライン本体は2017年時点の版であり、2026年8月1日施行の改正内容がまだ反映されていない箇所があります(試験規格の名称など)。実務では必ず最新版の法令本文と、輸入者を通じた当局照会で確認してください。
結論:店頭に並ぶまでに越える関門は3つ
日本の器がマレーシアの小売店の棚に並ぶまでに、越えなければならない関門は大きく3つです。順番に見ていきます。
関門1:溶出基準への適合。鉛とカドミウムの溶出量が、器の形状区分ごとに定められた上限を下回っていること。
関門2:恒久的な表示。1点ずつの器に、製造者または供給者の識別情報・原産国・陶磁器の分類・「FOR FOOD CONTACT」の4項目が消えない形で表示されていること。
関門3:分析証明書(COA)の添付。輸出国の所管当局が認定した試験機関が発行したCOAを、輸入の都度、通関時に提示できること。
この3つはいずれも「バイヤーが決まってから慌てて対応する」には時間がかかる項目です。特に関門2は、器そのものの仕様に手を入れる話になるため、窯元との調整と焼成のリードタイムが発生します。商談の初期段階で提示できているかどうかが、そのまま取引の成否を分けます。
なお、花器・置物・オブジェなど食品に接触しない陶磁器は第28条の対象外で、別のルートを通ります。詳しくは後述します。
2026年8月1日、溶出基準の枠組みが変わった
食品規則1985の第28条は、マレーシアにおける食品接触用陶磁器の中心的な規定です。ここでいう陶磁器(ceramic ware)は、ボーンチャイナ、磁器(porcelain)、硬質磁器(vitrified china)、陶器(earthenware。iron stonewareを含む)、炻器(stoneware)などで作られ、人の飲食に供する食品の調理・包装・保管・提供・陳列に使われる、または使われることが意図された器具や容器を指します。
2026年1月30日、マレーシアの保健大臣は食品(改正)規則2026(P.U.(A) 48/2026)を官報に公布し、この第28条と第13付表を改正しました。施行日は2026年8月1日です。改正の柱は次の3点です。
「調理器具(cooking appliance)」の定義を第28条に新設。通常の加熱またはマイクロ波によって加熱されることが意図された陶磁器を指す。
第13付表の表1(鉛・カドミウムの最大許容溶出量)に、従来の3区分に加えて調理器具の区分を追加し、4区分とした。
試験に用いる検体数と、判定の考え方(全検体基準か平均値基準か)を表中に明記した。
この改正の起点は2020年3月にマレーシアがWTOへ行った通報(G/SPS/N/MYS/44)です。通報から官報公布まで5年以上かかり、施行からもまだ日が浅い改正です。解説記事や業者資料を参照する際は、陶磁器の区分が3つのままになっていないかを必ず確認してください。土鍋や耐熱皿を扱う事業者にとっては、自社製品に固有の基準値が設定されたことになるため、影響は小さくありません。
出典:Food (Amendment) Regulations 2026(P.U.(A) 48/2026)、WTO通報 G/SPS/N/MYS/44、SGS SafeGuardS 031/26(2026年2月18日)
自社製品はどの区分か——内寸25mmと容量1.1リットル
溶出基準は器の形状によって適用される数値が変わります。区分の分かれ目は、内寸の深さ25ミリメートルと、容量1.1リットルの2つです。
【フラットウェア(flatware)】内寸の深さが25mm以下の器。取り皿、大皿、トレー、ソーサーなど。基準は鉛0.8 mg/dm²、カドミウム0.07 mg/dm²。判定は検体の平均値が上限以下であること。
【スモールホローウェア(small hollow ware)】内寸の深さが25mmを超え、容量1.1リットル未満の器。湯呑、マグ、小鉢、急須など。基準は鉛2.0 mg/L、カドミウム0.5 mg/L。判定は全検体が上限以下であること。
【ラージホローウェア(large hollow ware)】内寸の深さが25mmを超え、容量1.1リットル以上の器。大鉢、大きめの壺型の器など。基準は鉛1.0 mg/L、カドミウム0.25 mg/L。判定は全検体が上限以下であること。
【調理器具(cooking ware)】通常加熱またはマイクロ波での加熱が意図された陶磁器。土鍋、耐熱皿、グラタン皿など。基準は鉛0.5 mg/L、カドミウム0.05 mg/L。判定は全検体が上限以下であること。
【共通】試験には、サイズ・形状・色・装飾が同一の検体を4点用意する必要があります。

図:食品規則1985 第13付表が定める鉛・カドミウムの最大許容溶出量。2026年8月1日施行の改正で調理器具の区分が追加されました。出典:Food Regulations 1985 第13付表(P.U.(A) 48/2026による改正後)をもとに作成。フラットウェアのみ単位が面積あたり(mg/dm²)で、判定も検体の平均値によります。
実務上、注意すべき点が3つあります。
第一に、調理器具の基準は4区分の中で最も厳しく、鉛でスモールホローウェアの4分の1、カドミウムで10分の1の水準です。土鍋や耐熱皿を輸出品目に含めるなら、他の器と同じ釉薬・同じ焼成条件で通るとは限りません。
第二に、フラットウェアだけが平均値判定で、残る3区分は全検体判定です。ばらつきの大きい手作りの器では、この差が効いてきます。手描き・手作業の絵付けや、窯変・還元焼成のように仕上がりに個体差が出る技法ほど、4点すべてが基準を下回ることを事前に確認しておく必要があります。
第三に、区分は「その器がどう使われるか」ではなく寸法と容量で機械的に決まります。京焼・清水焼のように同じシリーズの中に皿・湯呑・小鉢・向付が混在する場合、1つのシリーズで複数の区分にまたがるのが普通です。試験は品目ごとに必要になると考えてください。

図:内寸の深さ25mmと容量1.1リットルによる区分の判定手順。出典:Food Regulations 1985 第28条およびマレーシア保健省ガイドラインをもとに作成。加熱して使うことを意図した器は、寸法にかかわらず調理器具として扱われます。
試験方法については、法令上はマレーシア規格(Malaysian Standard)が指定されています。2017年の改正でMS ISO 6486-1からMS 1817-1(Ceramic Tableware - Specifications)に置き換えられていますが、保健省のガイドライン本体は旧規格名のまま更新されていない箇所があります。試験機関に依頼する際は、規格名を必ず最新の条文で確認してください。
出典:Food Regulations 1985 第28条・第13付表(P.U.(A) 48/2026による改正後)、Food (Amendment) (No.2) Regulations 2017(P.U.(A) 104/2017)、マレーシア保健省 食品安全・品質部ガイドライン
最大の関門は「消えない表示」——日本の器にとっての本丸
溶出基準は試験で確認すれば済む話です。しかし表示義務は、器そのものの仕様変更を伴うため、実務上はここが最大の関門になります。
食品規則1985第28条は、陶磁器に対して「明瞭かつ恒久的に(clearly and permanently)」次の4項目を表示することを求めています。
1. 製造者または供給者を識別できる名称、商標、その他の手段。
2. 原産国。
3. 次のいずれかの分類:ボーンチャイナ/磁器(porcelain)/硬質磁器(vitrified china)/陶器(earthenware)/炻器(stoneware)/その他の分類(ホテルウェア、テラコッタを含む)。
4. 「FOR FOOD CONTACT」の文言、または第13付表の表IIIに定められた食品接触マーク。

図:陶磁器に恒久的に表示すべき4項目。出典:Food Regulations 1985 第28条、マレーシア保健省「Guidelines on importation of ceramic ware」3.2項をもとに作成。図中の窯名は架空の記載例です。第13付表 表IIIの食品接触マークは転載していません。
表示に使う言語は、マレーシア国内で製造された陶磁器はマレー語、輸入品はマレー語または英語です。いずれの場合も他言語の併記は認められます。日本の輸出者にとっては英語で対応できる点が救いですが、逆に言えば日本語表記だけでは要件を満たしません。
ここで日本の窯元が直面するのが、「恒久的に」という要件です。高台に窯印や作家印が押してあるだけでは足りず、原産国と分類、そしてFOR FOOD CONTACTまでを、洗っても剥がれない形で入れる必要があります。現実的な手段は、焼成前の下絵付けやスタンプ、上絵付けの転写紙(デカール)を貼って焼き付ける方法などです。いずれも焼成工程に組み込む必要があるため、既製の在庫品をそのまま出荷することはできません。
ただし、免除規定があります。スープスプーン、箸、塩胡椒入れ、ソーサー、エスプレッソカップのような小物については、器本体への表示が免除されます。この場合は外装(outer packaging)に表示を記載すれば足ります。免除される品目は「これらを含むが限定されない(including but not limited to)」という書き方になっているため、どこまでが小物に当たるかは輸入者を通じて当局に確認するのが安全です。
少量多品種・受注生産で動く京都の窯元にとって、この要件は無視できないコスト要因です。一方で、これは価格を下げる方向の競争から離れる理由にもなります。ロット単位で恒久表示を焼き付ける体制を持っている産地は限られており、対応できること自体が、量販品との差別化を説明する材料になるからです。商談では「対応にどれだけ時間と費用がかかるか」を先に開示したうえで、その分の価格根拠として説明するほうが通りやすくなります。
出典:Food Regulations 1985 第28条、マレーシア保健省 食品安全・品質部「Guidelines on importation of ceramic ware」3.2項
COAと通関——書類がないとLevel 5で止まる
マレーシア保健省は、食品接触用陶磁器の輸入について分析証明書(Certificate of Analysis、COA)の提示を求めています。運用開始は2017年7月15日です。
COAの要件は次のとおりです。
発行者は、輸出国の所管当局(Competent Authority)が認定・承認した試験機関であること。日本であれば、公的に認定を受けた試験所が該当します。
鉛とカドミウムの溶出量が、第28条第4項に定める基準の範囲内であることを示す内容であること。
貨物(consignment)ごとに用意し、各入国地点の担当官に提示できる状態にしておくこと。
有効期間は発行日から1年を超えないとされています。ただしこの点は保健省ガイドライン本文には見当たらず、規制情報サービスの解説に依拠しています。実務では輸入者を通じて確認してください。
COAがない場合、または輸出国当局が認定していない試験機関が発行したCOAだった場合、貨物にはレベル5の検査措置(Hold, Test & Release)が課されます。貨物は留置され、当局がサンプルを採取して分析を行い、食品法1983とその関係規則に適合していることが確認されて初めて解放されます。この分析費用は輸入者の負担です。

図:食品接触用として輸入する場合と、それ以外の用途で輸入する場合の通関の流れ。出典:マレーシア保健省「Guidelines on importation of ceramic ware」4.0項をもとに作成。
実務上の意味は明確です。COAの不備は輸入者のコストと納期リスクとして跳ね返ります。マレーシア側の輸入代理店や百貨店のバイヤーが日本の器の取り扱いに慎重になるとすれば、意匠や価格ではなくこの部分が理由であることが少なくありません。逆に、初回の商談から「COAはこの試験所で取得済み、有効期限は◯年◯月まで、対象品目はこれとこれ」と示せる日本企業は、それだけで相手のリスクを下げていることになります。
書類の名称については注意が必要です。2013年に公表された旧版のガイドラインでは、2014年1月1日から健康証明書(Health Certificate)に「当該貨物は鉛とカドミウムの溶出がない、または最大許容量を超えず、規則28(陶磁器)が定める物理的特性の要件に適合している」旨の文言を記載する手続きが示されていました。一方、現行の2017年版ガイドラインが求めているのはCOAであり、健康証明書への言及はありません。旧手続きが置き換えられたのか併存しているのかは公開情報からは判断できません。どの書類をどの形式で用意するかは、輸入者を通じて入国地点の担当官に確認したうえで確定させてください。
出典:マレーシア保健省 食品安全・品質部「Guidelines on importation of ceramic ware」4.0項、同省2014年1月1日付運用通知
花器・置物・オブジェはどう扱われるか
食品に接触しない陶磁器——花器、香炉、置物、オブジェ、インテリア用の壁掛けなど——は、第28条の規制対象外です。溶出試験もCOAも、FOR FOOD CONTACTの表示も求められません。
ただし、自動的に対象外になるわけではありません。保健省のガイドラインは、食器以外の用途で輸入する場合、輸入者または通関業者が入国地点の担当医務官(Medical Officer of Health)に申告書(declaration letter)を提出することを求めています。担当官はこれを受けて、第28条の管理が「該当なし(not applicable)」として貨物を解放します。
そして、ここに続く一文が重要です。ガイドラインは、市場での監視活動によって当該陶磁器が食器として使われていることが判明した場合には、法執行措置がとられると明記しています。
この規定が効いてくるのが、用途が曖昧な商品です。たとえば「花を活けても菓子を盛ってもよい」と提案するタイプの器、茶道具として売りながら実際には食卓で使われる可能性がある器、酒器として売る徳利や盃などがこれに当たります。非食品接触として通関させた商品が現地で食器として販売・使用されていれば、輸入者がリスクを負うことになります。
実務上は、商品ごとに「食器として売るのか、そうでないのか」を最初に決め、食器として売る可能性が少しでもあるなら第28条の要件を満たしておくほうが安全です。カタログや商品説明の文言も、通関時の申告内容と矛盾しないよう揃えておく必要があります。
出典:マレーシア保健省 食品安全・品質部「Guidelines on importation of ceramic ware」4.0項
関税とSST——EPAは4本あり、有利なものを選べる
マレーシアへの輸入にかかる公租公課は、輸入関税(import duty)、物品税(excise duty)、売上税(sales tax)の3層構造です。物品税は酒類・たばこ・自動車など特定の品目に課されるもので、陶磁器の食器が対象になることは通常ありません。実務上は輸入関税と売上税の2つを押さえるのが基本になります。
課税標準はCIF価格です。輸入関税はCIF価格に税率を乗じて算出し、売上税はCIF価格に輸入関税額(および該当する場合は物品税額)を加えた金額に税率を乗じて算出します。つまり関税が上がると売上税も連動して上がる構造です。

図:CIF価格から小売価格までの積み上げ構造。各層の高さは実際の比率を表すものではありません。輸入関税はCIF価格に、売上税はCIF価格に輸入関税額を加えた金額に課されます。
日本からの輸出で使える経済連携協定は4本あります。日マレーシア経済連携協定(JMEPA、2006年7月13日発効)、日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)、地域的な包括的経済連携協定(RCEP)、環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)です。これらは優先関係のない併存する協定であり、輸出者と輸入者は品目別原産地規則と税率を比較して有利なほうを選べます。
特恵税率の適用を受けるには、輸入通関時に特定原産地証明書を提出する必要があります。日本側では日本商工会議所が発給する第一種特定原産地証明書を取得するのが一般的な流れです。
ここで見落とされやすい論点が2つあります。
第一に、EPA税率が常に有利とは限りません。マレーシアは実行最恵国(MFN)税率の引き下げを進めてきており、品目によってはMFN税率がEPA税率と同じか、それより低い場合があります。この場合は原産地証明書を取得する手間をかけずにMFN税率で通したほうが合理的です。日本の外務省も過去にこの点について輸出者向けの注意喚起を出しています。
第二に、関税0%でも売上税は別途かかります。マレーシアは2018年にGSTを廃止して現行のSST(Sales and Service Tax)に戻っており、輸入物品に対する売上税は5%または10%、あるいは品目別の特定税率です。税率は売上税(税率)令2025で定められ、原則は10%、5%または特定税率が適用される品目は個別に列挙される構造になっています。関税がゼロだから無税だと思い込むと、着地価格の設計を誤ります。
なお、SSTは2025年7月1日に大幅な見直しが行われました。財務省の発表によれば、生活必需品の税率は据え置きつつ、選択的・非必需の物品について0%から5%へ、あるいは5%から10%への引き上げが行われています。輸入品の売上税は「税関の管理を離れた日」を基準に新税率が適用されるため、改定をまたぐ取引では特に注意が必要です。
自社製品の具体的な税率を確認する方法は次のとおりです。
HSコードの特定:陶磁器の食器は、磁器製ならHS 6911、それ以外の陶磁器(炻器・陶器など)ならHS 6912、置物・装飾品はHS 6913に分類されるのが基本です。マレーシアはASEAN共通の8桁品目表(AHTN)を採用し、一部の品目にはさらに国内細分が加わります。
MFN税率の確認:マレーシア関税局のHS Explorer(ezhs.customs.gov.my)または関税令2022(Customs Duties Order 2022)で確認します。
EPA税率の確認:JMEPAはジェトロの日本・マレーシア経済連携協定のページからマレーシア側譲許表を、AJCEP・RCEP・CPTPPはそれぞれの譲許表を参照します。
売上税率の確認:売上税(税率)令2025および売上税(免税物品)令で、該当HSコードがどの区分に入るかを確認します。
分類に迷う場合:マレーシア関税局は事前分類(customs ruling)の制度を設けています。輸入者を通じて申請できます。
台湾向けの価格設計との比較は、台湾への輸出にかかる関税・コスト・価格設定ガイドも参考にしてください。マレーシアはEPAが4本あるぶん選択肢は多い一方、SSTの税率区分が2025年に動いているため、確認すべき項目は台湾より多くなります。
出典:ジェトロ「日本・マレーシア経済連携協定」および「EPAの原産品判定基準と特恵関税:マレーシア向け輸出」、マレーシア財務省2025年6月発表「Targeted Revision of Sales Tax Rate and Expansion of Service Tax Scope Effective 1 July 2025」、Customs Duties Order 2022、Sales Tax (Rate of Tax) Order 2025
陶磁器にハラル認証は必要か
マレーシアを扱う際に必ず出てくる論点がハラルです。結論から書くと、陶磁器の食器そのものにJAKIM(マレーシアイスラム開発庁)のハラル認証を求める制度は確認できませんでした。
JAKIMのハラル認証は、食品・飲料(製品)、食品施設(レストラン・セントラルキッチン・ケータリング)、消費財(化粧品・トイレタリー・パーソナルケア)、医薬品、物流、OEMといったスキームに分かれています。公開されているスキームの区分に食器・調理器具のカテゴリは含まれておらず、そこから陶磁器の食器は認証の対象外と読めます。ただしこれはスキーム一覧からの解釈であり、JAKIMが「食器は対象外」と明示した文書を確認できたわけではありません。
ただし、注意すべき点が2つあります。
第一に、認証を受けずに「ハラル」を名乗ることはできません。商品説明令(ハラルの定義)2011(Trade Descriptions (Definition of Halal) Order 2011)により、無認可のハラル表示・ハラル訴求は刑事罰の対象となります。「ムスリムの方も安心してお使いいただけます」といった趣旨の表現をマレーシア語や英語で商品パッケージや販促物に載せる場合、その文言がハラル訴求と受け取られないかを事前に確認する必要があります。
第二に、買い手側の運用は別問題です。ハラル認証を取得している飲食店やホテルは、認証の維持要件として調理器具・食器の管理に関する条件を負っています。日本の器をそうした施設に納入する場合、施設側から素材や製造工程について照会を受ける可能性があります。釉薬や絵付けの原材料、焼成工程での動物性素材の使用有無などを聞かれたときに、窯元として回答できる資料を用意しておくと商談が滑らかになります。
なお、今回の想定読者である百貨店・小売・ギャラリー・輸入代理店に卸すケースでは、この論点が前面に出ることは多くありません。ハラルが直接効いてくるのは、飲食店・ホテル・給食といった業務用チャネルに入るときです。チャネルによって確認すべき事項が変わる点は、最初に整理しておく価値があります。
出典:Trade Descriptions (Definition of Halal) Order 2011、JAKIM ハラル認証スキームの区分に関する公開情報
市場の大きさを正直に見ておく
マレーシアが日本から輸入している陶磁器の金額は、決して大きくありません。UN COMTRADEの2025年の数字を見ると、次のような規模です。
食器・台所用品・その他の家庭用品(HS 6911と6912の合計):約86万米ドル
陶磁器製の小像・その他の装飾品(HS 6913):約7万米ドル
他に分類されない陶磁器製品(HS 6914):約44万米ドル
注:金額は集計サイト経由で参照したUN COMTRADEの公表値です。6911(磁器製)と6912(磁器以外)は参照元の項目名が紛らわしく内訳を確定できなかったため合算しています。
食器と装飾品を合わせても、日本からマレーシアへの陶磁器輸入は年間100万米ドルに届きません。日本円にして1億数千万円程度の市場です。この数字を見て「小さすぎる」と判断するのは自然な反応です。
一方で、この数字の読み方には別の面もあります。市場が小さいということは、日本の器を専門的に扱っている現地プレイヤーがまだ少ないということでもあります。規制対応を済ませたうえで供給できる日本側の窓口は、さらに限られます。数量を追う商売には向きませんが、単価と継続性で組み立てる取引であれば、参入の余地は残されています。
重要なのは、この規模感を最初にバイヤーと共有しておくことです。相手が期待している数量と、日本側が供給できる数量・価格帯がずれたまま商談を進めると、後工程で必ず破綻します。
出典:UN COMTRADE(マレーシアの対日輸入額・2025年)。集計サイト経由で参照した公表値を丸めて記載しています。COMTRADEの原データベースで直接照会したものではありません。
商談前に用意しておく6点
マレーシア側の百貨店バイヤー、ギャラリーのオーナー、輸入代理店と最初に会う前に、次の6点を揃えておくと商談の質が変わります。
1. 品目ごとの区分表。取扱品目を、フラットウェア/スモールホローウェア/ラージホローウェア/調理器具の4区分に振り分けた一覧。内寸の深さと容量を実測して添えます。
2. 溶出試験の結果またはCOA。少なくとも主力品目について、鉛・カドミウムの溶出量を示す試験結果。認定試験機関で取得し、有効期限を明記します。
3. 恒久表示の対応方針。4項目をどの方法(下絵付け・スタンプ・転写)で入れるか、それによって単価とリードタイムがどれだけ変わるか。免除対象の小物については外装表示のサンプル。
4. HSコードと想定税率。品目ごとのHSコードと、MFN・JMEPA・AJCEP・RCEP・CPTPPの比較。原産地証明書を取得する場合の手続きと所要日数。
5. 食品接触品と非食品接触品の切り分け。花器・置物として売る品目を明確に分け、カタログの表記と通関申告が矛盾しない状態にします。
6. 供給能力の実数。月あたり・年あたりに供給できる数量、最小ロット、リードタイム、再注文にかかる期間。一点物・受注生産が中心なら、その前提を最初に伝えます。

図:マレーシアのバイヤーとの商談前に用意しておく6点。①③⑤は日本側だけで完結し、②④は費用と時間がかかるため先行着手が望ましい項目です。
このうち1・3・5は日本側だけで完結する準備です。2と4は費用と時間がかかりますが、商談が具体化する前に着手しておくほうが結果的に早く進みます。
誰がどの書類を用意するか——輸出者と輸入者の分担
マレーシアの規制は、その多くが「輸入者が満たすべき義務」として書かれています。COAの提示も、非食品接触品の申告書も、法律上の名宛人はマレーシア側の輸入者です。ところが、実際に書類の中身を作れるのは日本側の輸出者しかいません。この非対称が、商談が止まる典型的な原因になります。
役割を整理すると次のようになります。
【日本側が用意するもの】溶出試験の依頼と結果の取得、COAの手配、器への恒久表示の実装、外装表示の作成、HSコードの候補提示、原産地証明書の取得(特恵税率を使う場合)、インボイス・パッキングリスト。
【マレーシア側が用意するもの】輸入者としての登録と通関申告(K1フォーム)、COAの入国地点での提示、非食品接触品の申告書の提出、輸入関税・売上税の納付、必要に応じた事前分類の申請。
【どちらか一方に寄せると危ないもの】HSコードの最終確定。日本側の想定と、マレーシア側の通関実務で分類が食い違うことがあります。事前に候補を出し合い、迷う場合は輸入者を通じて関税局の事前分類を取るのが安全です。
COAについては、有効期限が発行日から1年である点も分担に影響します。継続的に出荷する取引では、期限切れのタイミングで再取得が必要になります。誰がいつ再取得を手配するのかを、初回の契約段階で決めておいてください。
Incotermsの選び方も同じ考え方です。FOB建てにすれば日本側の手離れはよくなりますが、通関で止まったときの情報が日本側に入ってきません。初回の取引だけはCIFやDDPに寄せて、通関実務でどこが引っかかるかを自社で把握しておく、という進め方も現実的です。
梱包についても一点だけ触れておきます。陶磁器は破損リスクが高く、海上輸送では温湿度と振動の両方を受けます。破損時の負担をどちらが負うかは、Incotermsと保険で決まりますが、実務上は「割れた分をどう補充するか」のほうが問題になります。一点物や受注生産が中心の場合、同じものを作り直せないことがあるためです。補充可能な品目と補充不可能な品目を分けて、後者は数量に余裕を持たせて出荷する運用が現実的です。
出典:マレーシア保健省 食品安全・品質部「Guidelines on importation of ceramic ware」4.0項、マレーシア関税局の輸入申告手続きに関する公開情報
よくある質問
Q. 展示会に持ち込むサンプルや商談用の見本にも規制はかかりますか
食品規則1985第28条は「食品の調理・包装・保管・提供・陳列に使われる、または使われることが意図された」陶磁器を対象としています。展示用のサンプルであっても食器として持ち込む以上は対象となる前提で準備するのが安全です。少量の持ち込みについての具体的な運用は入国地点の担当官の判断が入るため、現地パートナーを通じて事前に確認してください。
Q. 日本国内でJIS基準の試験を受けていれば、それを流用できますか
マレーシアの基準値と試験方法はマレーシア規格で指定されており、日本の試験結果をそのまま読み替えることはできません。ただし試験項目自体は鉛とカドミウムの溶出であり共通するため、国内試験の実績があれば数値の見当はつきます。正式にはマレーシアの要件に沿った試験を、輸出国当局が認定した試験機関で受け直す必要があります。
Q. 「FOR FOOD CONTACT」は日本語で書いてもよいですか
認められません。輸入品の表示言語はマレー語または英語です。他言語の併記は可能なので、英語表記に日本語を添えることは差し支えありません。
Q. 骨董品や中古の器を輸出する場合はどうなりますか
食器として販売する以上、新品か中古かで第28条の適用が変わるわけではありません。加えて、SSTの2025年改定では骨董の手描き美術品が高い税率区分に移されたとする解説があります。税率面での扱いが変わる可能性があるため、骨董・古美術を扱う場合は通関分類と税率を個別に確認してください。
Q. 漆器や木の器も同じ規制ですか
第28条は陶磁器(ceramic ware)を対象とする規定です。漆器や木製品は別の条項の対象となります。素材ごとに規制の建て付けが違うため、複数素材を扱う場合は品目単位で確認が必要です。素材別の考え方は日本の漆器・陶磁器を海外で売る実務ガイドでも整理しています。
Q. 茶器や急須も陶磁器として同じ扱いですか
急須や湯呑は内寸の深さと容量からスモールホローウェアに分類されるのが通常で、第28条の対象です。茶器特有の販路や規制の考え方は日本の茶器・急須を海外で売る実務ガイドを参照してください。
まとめ
マレーシアへの陶磁器輸出で押さえるべき論点を整理します。
食品接触用の陶磁器は食品規則1985第28条と第13付表の対象。2026年8月1日施行の改正で区分が4つになり、調理器具が追加された。
溶出基準はフラットウェアのみ平均値判定、他の3区分は全検体判定。試験には同一仕様の検体が4点必要。
1点ずつの器に、製造者識別・原産国・陶磁器の分類・FOR FOOD CONTACTの4項目を恒久的に表示する義務がある。小物は外装表示で代替可。
輸入時にはCOAが必要。不備があるとレベル5(Hold, Test & Release)で留置され、分析費用は輸入者負担。
非食品接触品は申告書で対象外扱いになるが、市場で食器として使われていれば法執行の対象になる。
関税はEPA4本とMFNを比較して選ぶ。関税0%でも売上税は別途かかり、2025年7月に税率区分が改定されている。
陶磁器そのものにハラル認証は不要。ただし無認可のハラル表示は刑事罰の対象。
日本からの陶磁器輸入額は年間100万米ドル未満。数量ではなく単価と継続性で組み立てる市場。
規制対応は、コストとして見れば負担です。しかし現地のバイヤーの立場から見れば、規制対応を済ませた仕入れ先は「面倒が起きない仕入れ先」です。日本の器の価値を説明する材料が意匠と技術しかない状態と、そこに規制対応の確実性が加わった状態とでは、商談の通り方が変わります。
Link Globalは、日本企業の海外販路開拓を台湾・シンガポールを中心に累計100社超・10カ国以上で支援してきました。伝統工芸品の海外展開は注力領域のひとつです。マレーシア向けの陶磁器・工芸品の輸出をご検討の場合は、お問い合わせフォームからご相談ください。海外市場開拓支援サービスの内容もあわせてご覧いただけます。




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