海外企業誘致の実務ガイド|5つの工程とKPI・庁内体制
更新日:13 時間前

海外企業誘致は、目標を決める、ターゲットを決める、接点をつくる、条件を詰める、進出後に伴走する、の5つの工程で進みます。誘致は検討から決定までに年度をまたぐことも珍しくないため、年度ごとに測る指標と中期で測る指標を分け、担当が替わっても続く体制をつくることが成果の分かれ目になります。
この記事は、自治体で海外企業誘致を担当する方に向けて、工程ごとにやること、KPIの置き方、庁内体制、使える公的な支援をまとめた実務ガイドです。どの企業を狙うかは「誰を呼ぶか」の記事で、よくある失敗とその避け方は5つの落とし穴の記事で扱っています。
対日直接投資の現状
財務省・日本銀行の統計によると、日本への直接投資の残高(対内直接投資残高)は2025年末で約58.6兆円となり、前年末から約5.1兆円増えました。政府は「2030年に120兆円、2030年代前半のできるだけ早期に150兆円」という目標を掲げています。2026年7月に対日直接投資推進会議が決定した「対日直接投資促進プログラム2026」では、自治体の誘致の取り組みへの支援、産業用地の整備、地域の産業クラスターへの誘致などが施策に挙げられています。
ジェトロの調査に回答した在日外資系企業1,520社のうち、本社が東京都にある企業は993社で、東京・神奈川・愛知・大阪の大都市圏で全体の86%を占めます。地方が選ばれるには、大都市にない条件を具体的に示す必要があります。
出典:ジェトロ「2025年度外資系企業ビジネス実態調査」(2026年2月)、回答企業の本社所在地
工程1:目標を決める
最終的な目標を「誘致した社数」だけにせず、地域の課題から逆算して決めます。雇用の創出、地元企業の取引拡大、特定産業の集積、研究開発の連携などです。
そのうえで、呼びたい機能(販売拠点、R&D、製造、実証)と、受け入れの条件(必要な人材、用地、規制、支援体制)を明確にします。最終目標に加えて、短期で追える成果(決める人との面談、視察、実証の開始)を分けて置くと、庁内への説明が安定します。
工程2:ターゲットを決める
ターゲットは「国×業種」だけでなく、進出の目的と段階で絞ります。販売拠点を探す企業、実証の場を必要とする企業、人材の確保が目的の企業では、見る条件がまったく違います。
候補企業は数十社程度のリストにし、優先度をつけて継続的に接触できる状態にします。詳しい決め方は「誰を呼ぶか」の記事を参照してください。
工程3:接点をつくる
接点は展示会だけに頼らず、複数の経路を組み合わせます。
ジェトロなど公的機関の誘致支援(下の「使える公的な支援」を参照)
在日の外国商工会議所や業界団体
地域に既に進出している外資系企業からの紹介
海外の展示会・カンファレンス
ベンチャーキャピタルやアクセラレーター
LinkedInなどを使った直接の連絡
どの経路でも、最初に渡すのは比較に必要な情報をまとめた資料です。用地・賃料、職種別の採用見通しと賃金水準、電力・水・物流、許認可の期間と窓口、税・補助、生活環境、既存の進出事例、窓口の連絡先を1つにまとめ、英語版を用意します。最初の30分で次の一手が決まるようにしておくと、相手の時間を無駄にしません。
工程4:条件を詰める
商談では、相手の投資判断の論点に沿って、先回りして答えを用意します。論点になりやすいのは次の5つです。
人材:採用の難しさ、賃金水準、教育機関との連携
コスト:賃料、税、補助
規制:許認可、実証に必要な手続き
市場:顧客や取引先への距離
生活:住居、子どもの学校、医療
外国人の経営者や社員が来る場合は、在留資格の手続きが必ず論点になります。特に、外国人が日本で会社を経営するときに必要な在留資格「経営・管理」は、2025年10月16日から許可基準が厳しくなりました。資本金等が3,000万円以上であること、常勤職員(日本人や永住者など)を1人以上雇用すること、申請者か常勤職員のいずれかが一定の日本語能力(日本語教育の参照枠のB2相当)を持つこと、経営・管理の経験が3年以上あるか関連分野の修士以上の学位を持つことなどが求められ、事業計画書は中小企業診断士・公認会計士・税理士の確認を受ける必要があります。外国人の経営者を呼ぶ場合は、こうした条件を早い段階で伝え、専門家につなぐことが欠かせません。
交渉は複数の部署にまたがるため、窓口を一本化し、法務・税務・在留の専門家が同席できる体制を早めに整えます。
工程5:進出後に伴走する
誘致は進出の決定がゴールではなく、定着、追加投資、別の企業の紹介につながってはじめて成果になります。
進出決定から最初の90日で、行政手続き、採用支援、拠点探し、取引先の紹介、地元での発信までを計画として示します。課題が出たときに「誰が何日で解決するか」を決め、定例で進み具合を確認します。地元企業との共同の取り組みをつくると、企業側の成功の確率が上がり、自治体の成果(雇用、取引、税収)にもつながります。
KPIの置き方
工程ごとに測る
誘致を営業の流れと同じように段階で捉えると、どこで止まっているかが見えます。
接点ができた企業数
有望かどうか判断できた件数
決める人と面談できた件数
条件を提示した件数
視察・現地検討に進んだ件数
進出を決めた件数、拠点を開設した件数
採用・取引・追加投資につながった件数
各段階で「次に進む条件」(たとえば決める人の同席、条件表の合意)を決めておくと、停滞の理由が見え、改善につながります。失注した場合は理由(採用難、用地条件、許認可、コスト、速さなど)を記録して翌年度の改善に使います。
年度KPIと中期KPIを分ける
年度内に進出決定まで届かないことは珍しくありません。年度KPIはターゲットリストの整備、決める人との面談数、視察数、実証の開始、資料の整備など「前進」を測るものにし、中期KPIは進出決定、拠点開設、雇用、取引額など最終成果に置きます。こうすると、短期の成果が出なくても計画が崩れず、議会や上長への説明もしやすくなります。
数字に出にくい成果を代わりの指標で測る
現地の要人との関係、業界での評判、地元企業への波及は数字に出にくいものの、次の案件の速さを左右します。「面談した決裁者の数」「紹介を受けた経路の数」「実証のテーマ数」「共同での発信の回数」などに置き換えると管理できます。英語の資料や事例記事といった成果物も、担当が替わっても残る資産として評価します。
庁内体制と資料のひな形
窓口を一本化する
企業誘致、国際、観光、都市計画、雇用など関係部署は多く、縦割りのままでは問い合わせのたびに担当が変わります。海外企業向けの窓口を1つに決め、庁内の役割分担と回答のルール、一次回答の目安(たとえば48時間以内)を定めます。
案件台帳を残す
案件ごとに、接点の経路、企業の概要、関心のテーマ、決める人、有望度、競合の候補地、論点、次の一手、期限、担当を記録します。月1回の会議でこの台帳を見直すと、優先順位の判断がしやすくなり、異動しても案件が途切れません。
外部の支援者を役割で使い分ける
現地のネットワーク、商習慣、法務・税務・労務の専門知識は、自治体だけでは埋めにくい部分です。認知は現地の団体やメディア、案件化は誘致の支援会社、手続きは専門家、信頼の担保は公的機関というように、役割で使い分けると費用対効果が上がります。
使える公的な支援
ジェトロは、自治体や大学・研究機関、産業団体などを対象に「地域エコシステムへの外資誘致プログラム」を実施しています。地域の重点産業分野の外国企業を招いての商談会やセミナー、在日外資系企業による地域の視察ツアー、競合する海外都市とのビジネス環境の比較調査、専門家の派遣による誘致体制づくりや誘致戦略の策定支援などが含まれます。
政府の「対日直接投資促進プログラム2026」では、ほかにも、ジェトロによる自治体の誘致戦略づくりと海外へのプロモーションの支援、日本立地センターによる工場適地と企業のマッチング、地域未来投資促進法にもとづく産業用地の整備の支援などが挙げられています。
スタートアップの誘致は実証から始める
海外のスタートアップは、最初から拠点を設けるより、小さく実証して市場性を確かめたいと考える傾向があります。自治体の課題を「他の地域にも展開できる形」に翻訳した実証テーマを用意し、対象、期間、成功の条件、提供できるデータや場所、協力者を明確にすると応募しやすくなります。実証の後に導入や調達、共同事業へ進む道筋を最初に示しておくことが、拠点化につながるポイントです。
よくある質問
海外企業誘致は何から始めればよいですか?
最初に、地域の課題から最終目標を決め、呼びたい機能(販売拠点、R&D、製造、実証)を絞ります。そのうえでターゲット企業のリストと、用地・人材・コスト・許認可をまとめた英語の資料を用意してから、展示会や個別の接触に進むのが効率的です。
海外企業誘致のKPIはどう設定すればよいですか?
接点、有望度の判断、決める人との面談、条件提示、現地検討、進出決定という段階ごとに件数を測り、年度KPIは前進を測る指標、中期KPIは進出決定や雇用などの最終成果に分けて置きます。
誘致から進出決定まではどのくらいかかりますか?
企業や業種によって大きく異なり、年度をまたぐことも珍しくありません。そのため、単年度の成果だけで評価せず、年度ごとの前進を測る指標を別に置くことをおすすめします。
自治体だけで対応できない部分はどうすればよいですか?
ジェトロなどの公的機関の支援に加え、在留・税務・労務の専門家、海外のネットワークを持つ支援会社を役割に応じて組み合わせます。窓口は自治体に一本化し、専門家が同席できる体制をあらかじめ決めておくと、企業側の不安を減らせます。
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海外企業誘致のご相談
Link Globalは、京都市や大東市で企業誘致に関するアドバイザーを務め、自治体の海外企業誘致を支援しています。誘致戦略の策定、ターゲット企業や競合地域の分析、誘致資料の作成から、進出後のフォローまで対応します。自治体向けの支援内容をご覧いただくか、お問い合わせフォームからご相談ください。初回のご相談は無料です。




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